北海道大学

新千歳空港にまもなく着陸

半年程前に友人からの誘いで北海道に旅行に行くことになった。何年振りの北海道だろうと考えていたら、初めて大学受験で北海道を訪れたのが、ちょうど30年前。北大や札幌に行く予定はなかったが、こんなタイミングは滅多にないので、北大にどうしても行きたくなった。無理を言って、旅行途中に一人だけで北大に行くことにした。

高校3年の最初の大学受験の時は学力的にどこの大学にも受かる状況になかった。なんとなく北大にあこがれて記念受験的に北海道に向かったが、この新千歳空港に降り立つ直前の、本州にはない、ただただ広がる大地を目にして、鳥肌が立ったことは今でも覚えている。そして、どうしてもこの地に来ないといけないとその時に強く思った。

最初の受験の時は北大に合格する可能性はゼロと分かっていたので、家で不合格通知を待った。その翌年は予備校に1年間通い、受験直前の時点で予備校の講師から偏差値的に北大合格は厳しいと言われていたが、迷わず北大を受験した。

北海道大学正門


合格発表当日は、朝に関西空港を出て、昼には北大に到着し、この正門を抜けて雪がまだたくさん残る雪道をひたすら歩き、合格掲示板に自分の番号がないことを確認して、そのままその足で来た道を引き返し、家路についた。合格掲示板の前に滞在時間、数分のために北海道まで来ていた。​結果がなんとなく分かっていたから何の感情も湧いて来なかった。


2回目の北大受験でも不合格となり、後期で受かっていた香川大学に入学したものの、時間を追うごとにじわじわと北大の不合格のショックが大きくなって、精神的には落ち込み続けていた。散々考え続けた挙句、入学してしばらく経った6月頃だったと思うが、せっかく大学に4年間行くならやっぱり北大じゃないと意味がないと思い、香川大学の授業には出ずに大学の図書館で受験勉強を始めた。いわゆる仮面浪人だ。3回目の受験になるし、これでだめなら北大はすぱっと諦めようと思った。北大も香川大学も法学部を受験したが、世の中のことを知るためには法学部だろう、という程度の理由で法学部を目指していたが、その時点ですでに社会に出てからの仕事としては設計者になりたいと考えていたため、この3回目の北大受験がだめならその翌年は自分のレベルにあった建築学科への入学を目指そうと考えていた。


そして、3回目の北大受験を目指し、朝から夕方まで図書館に缶詰になって勉強を続けた。また、センター試験は当時、旧課程と新課程に分かれており、平均点差が20点程度開いた場合は補正されるとのことだった。私は旧課程で受験したが、その年は旧課程が新課程に比べて平均点が20点近く低かったが、補正されることもなかった。背水の陣で臨む3回目の受験でもこんな仕打ちなら、北大には行けないという運命なのかな、と多少弱気にもなっていた。センター試験の結果は北大合格は五分五分といった所。2次試験の手応えも特に感じることはなかった。

合格掲示板があった場所


そして、3回目の北大合格発表の時はその日に合否が郵送されてくるので、合格掲示板を見に行く必要は本来ないのだが、結果がどうであれ、どうしても現地で自分の目で確認したいと思い、去年に引き続き、朝から関西空港を出発し、北大へ向かった。受験自体は終わっているのだから、どうすることもできないのだが、北大の合格掲示板前に向かう道中、不安と緊張でどうにかなりそうな気分だった。

前回同様に札幌駅から合格掲示板に向かってひたすら歩いた。そして、合格掲示板の前に立つ。自分の受験番号を探して目で追っていくと「あった!」。夢じゃないだろうかと再度、自分の受験票の番号を確認しても間違いなく同じ番号が合格掲示板にあった。ふわふわした気持ちのまま、とりあえず、合格掲示板の近くにあった電話ボックスから実家に電話を掛ける。すでに合格通知は実家に郵送で届いてたらしく、おめでとうの言葉。涙が溢れて止まらなくなることってあるんだと思った。

北大の南北に貫く構内道路。約1.2kmある。

その後、北大に入学し、部活はアイスホッケーをして、バイトは居酒屋、レストランバー、スターバックス等のやってみたいと思ったバイトを片っ端からしていった。北大の南北の構内道路もアイスホッケーの陸上トレーニングで何度往復したか数知れず。その甲斐(?)あってか、あれだけ苦労して入学した北大での学生生活は勉強もほとんどせずに、ほぼ部活とバイトだけの生活となった。ただ、今から振り返っても部活やバイトで得た経験は何十年も経った今でもに役立っている部分もあるので、それはそれで必要なことだったのだと思う。

そして、大学3年生も終わりかけの頃、来年は就職か、もしくはかねてからの希望の建築学科への編入かと考え始めていた所、そもそも法学部卒業に必要な単位がかなり足りないことに気づいた。卒業には専門の単位が100単位ちょっとが必要だが、3年生が終わった段階で10単位ぐらいしか取得していない。何やってたんだろう。自分で自分のことを本当にバカなんじゃないだろうかとこの時ほど思ったことはない。卒業と卒業後の進路という重い課題に対して実現不可能に近い努力が必要という壁にぶち当たり、しばらく打ちひしがれていた。

思考停止で立ち止まっていても仕方がないので、周りの友人にも相談したりして、ひたすら必死に考えた。出た結論としては、そもそもまずは4年で法学部を卒業するためにこの1年で専門単位を約100単位取得すること。そして、設計者になりたいという希望は改めて考え直しても変わらなかった。また、自分で設計事務所を営むために一級建築士の資格を取りたいと思った。ただ、当時の法律では、一級建築士を取得するには建築系の仕事に就いて10年ぐらいしないと受験資格すら取得できない。そのため、建築系の4年生大学を卒業することがまだ早道ということが分かった。そのため、やはり就職ではなく編入試験を受けて建築学科に入学すること。また、北大がやっぱり大好きなので、北大の建築学科の編入1本に絞ること。そう決めて、4年生の1年間は精一杯頑張ろうと心に誓った。

4年生の1年間はジェットコースターのように上がったり下がったりの1年間だった。北大の建築学科の編入試験は合格したものの、法学部の単位は結局、1年間で90単位近く取ったが、卒業に必要な単位まであと数単位足りずに留年となり、それを受けて編入試験合格が取消しとなった。1年で90単位超も取れるなら早く取っておけよ、とも思った。また、道内出身の同級生のスケート技術の足元にも及ばないなりに約4年間頑張ってきたアイスホッケーは最後の重要な大会の直前の練習中に足首を骨折して、スケート靴が足を押し込まないと履けないぐらいに腫れ上がった。その最初の1試合だけ出場したが、今までほとんど得点したこともなかったのに、1ゴール1アシストでその試合で一番の活躍ができた。だが、その試合を最後に一人だけ先の引退となり、留年するかどうか分からない不安の中、毎日、雪道をギブスをした足にスリッパを履いて松葉杖を付いて大学に通い続けた。4年生が終わる頃には、ギブスを巻いた足を見ながら、留年と編入試験合格取消しの状況に打ちひしがれてしばらく家に引きこもっていた。

また、思考停止で立ち止まっていても仕方がないので、1年前と同じように周りの友人にも相談したりして、今すべきこと、今できることをひたすら必死に考えた。骨折はもう少しすれば治るとしても、今、何ができるのか。法学部の数単位だけのためにもう1年間法学部に通うが、無駄に時間が余りすぎる。また、仮に法学部から建築学科に行けたとしても、通常は編入すると従前の学部の単位の読み替え等ができるが、文系から理系なので法学の履修内容は建築の履修内容に読み替えようがない。調べた結果、他学部履修という制度があることが分かった。そこで、法学部の単位は早々に取ってしまって、建築学科の授業に出席して、建築の専門単位を取ることにした。

建築の専門科目の授業はクラス分けされており、基本的に見知った人達でしかクラスは構成されていないが、その中で「あの人、誰?」という視線を感じながら、翌年以降の建築学科での勉強を有利に進めるために必死に受けられる授業は出来る限り受講していった。

とある日、良く言えばやる気満ちた状況で授業を受ける私を快く思ってくれていた教授から話があると呼ばれ、その方の研究室に伺った。その教授が言うには、編入試験を担当する教授が、留年になって合格が取消しになったにも関わらず、建築の専門科目の授業を受けている私を快く思っていないらしいとのこと。そのため、その教授が編入試験を担当する限り、君の建築学科への編入は難しいかもしれない、と教えてくれた。仮にその通りとすると、今後数年は確実に北大の建築学科への編入が難しいことになる。ただ、いろいろと考えたが、あくまで編入の試験を受けるのであり、面接もないので、試験でしっかり点数を取れるかどうかで判断されると考えた。何より大好きな北大の、その建築学科へ行きたいのだから、今更、方向転換もしたくないと思い、そのまま、建築学科の専門科目の授業に出席しつつ、編入試験の勉強も進めていった。

そして、2回目の北大の建築学科の編入試験。自分なりに順調に回答が出来、漏れなくしっかりと書き込むことができた。試験が終わった段階でも手応えがあった。また、答案用紙を回収する時に他の受験者達の答案がちらっと見えたが、回答を書いている部分よりも白紙の部分が目立っていたので、これは合格できると確信した。

そして、編入試験の合格発表の日。その時の受験者数は私も含め3名だったが、落ちたのは私だけ。他の受験生の白紙部分が目立つ答案用紙を思い返せばそんな結果になりようもないが、事実として私だけが不合格だった。以前に私に助言してくれた教授の言葉が甦った。

建築学科のある工学部前の噴水
噴水前のベンチに座って、空を見上げる

法学部は残りの数単位はすでに取得して卒業。だが、編入試験は不合格で、例え翌年に再受験してどんなに高得点を取ったとしても受かる見込みもない。4月からは大学生でもなく、就職が決まっている訳でもなく、何者でもない状況。設計者として社会へ出て、一級建築士の資格も取って、自らの設計事務所を立ち上げる、なんて夢のまた夢。

工学部前の噴水前のベンチに腰掛けて、ぼーっと空を見上げた。青空に雲はゆったりと流れているが、全ての時間が止まったような感覚に陥った。目に見える風景の色も白黒だけのような感じがした。涙は出てこないが、何の考えも浮かんでこないし、何の感情も湧いてこない。後から振り返ると、それが「絶望」という感覚だったと思う。約50年生きてきたが、その時以外にその感覚は感じたことがないし、今でもその時のことをはっきり覚えている。

今回、北大を久しぶりに訪れたが、何よりしたかったのは、この工学部前のベンチに座って空を見上げたかった。そして、実際にやってみた。懐かしいでもなく、うれしいでもなく、悲しいでもなく、悔しいでもなく、これといった感情も湧かなかったが、なぜかぼろぼろ涙が出てきた。こんなに涙が出てきたのはいつ振りだろうかと思うぐらい、しばらく涙が止まらなかった。

構内にあるクラーク博士の胸像

北大の構内を歩き回って、最後にクラーク像を見てから去った。クラーク博士の有名な言葉。「Boys,be ambitious(少年よ、大志を抱け)」。その言葉はずっと私の中にある。約25年前にあの工学部前の噴水のベンチに座って絶望感を感じた時からそれ以降もその言葉に何度も励まされてきて、今がある。死ぬまでその言葉は私の中に残るだろう。できることなら、また30年後に噴水前のベンチに座り、空を見上げたいと思う。今回同様に、涙が出てくるような気がする。そして、クラーク博士に次は感謝と別れの言葉を投げかけたいと思う。

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詐欺罪、危険の現実化、共犯の錯誤、業務妨害罪における公務(2023司法試験-刑法)

〔設問1〕詐欺罪における実行の着手について

・実行の着手(意義)(43)
:既遂犯の構成要件的結果を生じさせる危険性が認められる行為への着手(実質的客観説)

詐欺罪(246)
:人を欺いて財物を交付させた場合(246Ⅰ)、人を欺いて財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた場合(246Ⅱ)に成立

移転罪であり、占有者の意思に基づく占有移転を要件とする交付罪であり、財物のみならず財産上の利益を客体とする個別財産に対する罪
↓(客体)
・財物(意義)
:有体物(空間の一部を占めて有形的存在を持つ、固体・液体・気体)に限られる(有体性説、通説)
・財産上の利益(意義)
:債権など有体物以外の財産的利益・権利

・人を欺く行為(欺罔行為)(意義)
:交付行為者の錯誤を惹起する行為(交付の判断の基礎となる重要な事項について欺かなければならない)
人を欺く行為による錯誤の惹起→錯誤に基づいた交付行為→交付行為による物、利益の移転(相互間に因果関係が必要)

〔設問2〕甲・乙・丙の罪責

・乙・丙の罪責(強盗致傷罪の成否)

・強盗罪(236)
:暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した場合(1項強盗罪)、暴行又は脅迫を用いて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合(2項強盗罪)に成立

・他人の財物
:他人が所有権を有する財物
・財産上の利益
:債権など有体物以外の財産的権利・利益

・暴行又は脅迫(通説)
:被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のもの

・強取
:暴行・脅迫により被害者などの反抗を抑圧して財物を奪取すること

・共同正犯(60)
:「2人以上共同して犯罪を実行した」場合に成立
・謀議・共謀に基づいて犯罪の実行が行われた場合には謀議関与者について実行行為の分担の有無を問わず共同正犯としての罪責が問われる

・乙と丙は、共謀に基づき、Bの手足を縛り口を塞いだ上で床に倒すという反抗抑圧に足る暴力を行い、それによりBの抵抗を排除した上で、B宅内にあったBの所持する現金300万円を持ってB宅を出ている
↓よって、
強盗罪の共同正犯(236Ⅰ、60)が成立

・その後、Bが緊縛による足のしびれの影響で転倒して全治2週間の頭部打撲の傷害を負ったことについて、強盗致傷罪の共同正犯(240、60)が成立するか。同罪の成立が認められるためには、乙・丙の強盗の手段たる緊縛行為と、Bの転倒による傷害との間に刑法上の因果関係が認められなければならない

・強盗致傷罪(240)
:強盗犯人が人を負傷させた場合に成立

・危険の現実化としての因果関係
:「行為の危険性が結果へと現実化したか」(危険の現実化)が基準とされて因果関係の判断が行われている

行為の危険が介在事情を介して結果へと実現したと言えるかを検討
(百選Ⅰ 8-14)

・Bは既に緊縛状態から解放されていたものの、Bに生じていた足のしびれはまさに長時間の緊縛行為の影響によるものであり、乙・丙の行為が、Bに立ったり歩いたりすると転倒しかねない危険な状況を設定したといえる。また、Bはしびれが完全に治るのを待って動き出す方がより安全だったものの、奪われた物の有無を早急に確認することは、場合によっては緊急の措置を採る必要が出てくる可能性があったことからすれば、強盗の被害者の心理状態として無理のないことであり、娘とはいえ同居していないCに確認させることも難しい。したがって、Bの行動は不自然なものとは言えず、乙・丙の行為によって設定された足のしびれによる転倒の危険が、Bの行動を介して結果へと実現したと評価できる。
↓よって、
乙・丙の行為と傷害結果との間には因果関係が認められ、強盗致傷罪の共同正犯が成立する

・甲の罪責

・甲は乙・丙と詐欺を共謀しているので詐欺未遂の共同正犯が成立

・甲は乙・丙が計画変更して実施した強盗致傷罪について何らかの罪責を負うか(共謀の射程の問題)

・共謀の射程
:当初の共謀の合意内容に含まれない犯行が行われた場合に当初の共謀の因果性がその行為に及んでいるのかという問題であり、当初の共謀と行為時の心理状態の関係、共謀時の予測可能性などの事情を総合考慮して判断される

当初の共謀内容である詐欺と実際に行われた強盗では財物移転罪という以上に高い類似性があるわけではない。もっとも、Bの300万円が目的である点は当初から同じであり、被害者であるBを選んで現金をB宅に用意させておくことは共謀成立以前に甲によって行われていた。また、分け前は当初の計画通り三等分であり、特殊詐欺グループの常習的な犯行の一環とも言うこともできる。さらに、特殊詐欺がいわゆるアポ電強盗に変化することは予測不可能というわけではない。
↓よって、
以上の事情を総合考慮すれば、当初の共謀の射程は乙・丙の強盗致傷に及んでいるといえる

・共犯と錯誤(抽象的事実の錯誤)
:共犯(教唆者・幇助者)又は共同正犯者が認識・予見した事実と正犯又は他の共同正犯者が実現した構成要件該当事実とが異なる場合、錯誤に陥っている共犯又は共同正犯者についていかなる犯罪が成立するか、という問題

認識事実と発生事実が異なる構成要件に該当する場合であっても両者が重なり合っていればその限度で軽い罪の故意犯の成立が認められる
↓よって、
詐欺罪の限度で実質的な重なり合いが認められ、甲乙丙には詐欺既遂罪の限度で共同正犯が成立
↓なお、
乙丙によるBに対する傷害の部分は共謀の射程内だとしても、甲に乙丙の緊縛行為を阻止する注意義務までは認めることができないので、過失傷害罪(209Ⅰ)は成立しない

〔設問3〕業務妨害罪における公務

・公務執行妨害罪(95Ⅰ)
:公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行又は脅迫を加えた場合に成立する
・保護法益
:公務員によって執行される職務(公務)

・業務妨害罪(威力業務妨害罪(234)、偽計業務妨害罪(233後段))の業務に公務が一部含まれうる
・業務
:職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務又は事業

・暴行・脅迫に至らない妨害を強制力によって排除することのできる「強制力を行使する権力的公務」以外の公務は業務妨害罪によって保護すべき(限定積極説)

・強制力を行使する権力的公務には暴行脅迫に至らない手段による妨害を受けた時にそれを自力で排除する権能が備わっているからそれをあえて業務として保護するのは適切でない(威力業務妨害の成否 最決H14.9.30 Ⅱ-24)

・警察官の逮捕は典型的な強制力を行使する権力的公務であり、事実6の道を塞ぐ行為に対しては強制力の行使が可能であったと言えるので、その公務は業務に該当せず威力業務妨害罪は成立しない。一方で、事実7の虚偽通報行為に対しては、それによって実施できなかった逮捕という職務は強制力を行使する段階におよそないと言えるので、業務として保護されるべきである。

参考文献
:刑法〔第4版〕・山口厚(有斐閣)
 刑法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第8版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

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仕上げ工事前

懸案だったガラススクリーンはほぼほぼ工事が終わり、最終のシーリング工事を行っている。また、建物内部も造作工事や仕上げ工事前の準備に取り掛かり始めた所だ。

ただ、工事は終盤に差し掛かってはいるが、仕上げ工事前にまだいろいろと決定する必要がある内容があり、このタイミングでもまだ建築主とやり取りをしている。今更、大きな変更はないが、それでも当初予定していた内容から一部変更したり、微調整したりする内容は出てくる。

建築主と打合せが始まったのが、約2年半前の2023年の冬。建築主からすればまだ決めなきゃならないことがあるのか、と思われそうだが、設計者である私ですらちょっと緊張の糸が途切れそうなぐらいの長丁場をくぐり抜けてきた感覚はある。まだあるのかとも思う。だが、ここで手を抜くと後から後悔しそうな気がするから、最後まで気を抜けない。事実ではなく、感覚的な内容だが、ここが最後のひと踏ん張りだと思う。これをしっかり対応することで建物の在り様は変わってくると考えている。だから、なんとか建築主にも付いてきて欲しいと思う。きっと素晴らしい建物になるはずですから。

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違法収集証拠排除、不利益変更禁止の原則、反射効(2023司法試験-民事訴訟法)

〔設問1〕違法収集証拠排除の法的根拠・判断基準について

・証拠能力の制限

原則として、証拠能力に制限はない
⇔刑事訴訟法では伝聞証拠の排除(刑訴法320)等、証拠能力の制限が厳格に定められている
↓(例外)
①明文規定がある場合
ex)疎明の証拠方法は即時に取調べが可能なものに限られる(188)等
②証拠制限契約がある場合
③違法収集証拠

・違法収集証拠

民事訴訟法上、違法収集証拠の証拠能力に関する規定はない
↓しかし、
違法収集証拠を裁判所が事実認定の資料として用いることは訴訟における公正の原則や訴訟上の信義則を損なうことになる(2)
また、裁判所が違法行為を是認したとの誤解を与えかねず、ひいては違法行為を誘発するおそれも否定できない
↓そこで、
証拠収集行為において刑罰法規に抵触するなどのような重大な違法があり、これを証拠として許容することが違法な証拠収集行為抑制の見地からして相当でないと認められる場合には証拠能力を否定するべきと解される

〔設問2〕控訴時の相殺の扱いについて

・控訴裁判所は不服申立ての限度でのみ、第1審判決の取消しおよび変更をすることができる(304)

不利益変更禁止の原則
:相手方の控訴または附帯控訴がない限り、控訴人の不利に第1審判決の取消しまたは変更をすることはできない

・既判力の客体的範囲

既判力は「主文に包含するもの」に限って生じる(114Ⅰ)

判決理由中の判断については原則、既判力が生じない
↓(例外)
判決理由中の判断である相殺の抗弁に対する判断について既判力が生じる(114Ⅱ)

〔設問3〕保証人に対しての判決効

・既判力の主体的範囲(判決の相対効)
①前訴の当事者(115Ⅰ①)
②当事者が他人のために原告または被告となった場合のその他人(115Ⅰ②)
③当事者または訴訟担当における被担当者の口頭弁論終結後の承継人(115Ⅰ③)
④当事者、訴訟担当の被担当者またはこれらの者の口頭弁論終結後の承継人のために請求の目的物を所持する者(115Ⅰ④)

保証人は該当しない

・補助参加人(保証人等)
:当事者の一方の勝訴について法律上の利害関係を有し、その当事者を補助して訴訟追行するために参加する第三者

自ら固有の請求をもたず、判決の名宛人となることはない
↓(従属的地位)(被参加人に有利なことはできるが不利なことはできない)
①補助参加人は参加時の訴訟状態を承認しなければならない(45Ⅰ但書)
②補助参加人は訴訟自体を処分することはできない
③補助参加人は被参加人の行為と抵触する行為をすることはできない(45Ⅱ)
④補助参加人は被参加人に帰属する形成権を行使できない

参加的効力(被参加人と補助参加人の間で生じる)
:被参加人が敗訴した後、被参加人と補助参加人との間で訴訟となった場合、敗訴の原因となった認定について補助参加人はもはや争えなくなるということ
↓(例外)(以下、参加的効力は生じない)
①参加の時期が遅れたため、一定の訴訟行為をなすことができなかった場合(46①)
②被参加人の訴訟行為と抵触したため、補助参加人の訴訟行為が効力を生じなかった場合(46②)
③被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げた場合(46③)
④被参加人が参加人のすることのできない訴訟行為を故意または過失によってしなかった場合(46④)

・反射効
:判決が当事者に実体法上依存または従属する地位にある第三者との関係で反射的に有利または不利な効果が生じること
↓(否定説)
・法律上依存関係の存在を理由として既判力の拡張が認められるのは、口頭弁論終結後の承継人の場合に限られていること
・法律上既判力の拡張が認められていない以上は訴訟物ごとに十全な手続保障を与えなければならないとするのが現行法上の原則であること
・第三者の有利にのみ既判力を拡張することは敗訴当事者の敗訴の負担を一方的に増大させるものであり公平に反すること

参考文献
:LEGAL QUEST 民事訴訟法〔第4版〕・三木浩一、笠井正俊、垣内秀介、菱田雄郷(有斐閣)
 民事訴訟法判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

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ガラススクリーンの施工途中

ガラススクリーンの施工開始が想定以上に順調だったので、これなら数日で終わるのでは、と思える感じだったが、やはりそうはいかなかった。積み上げるごとに誤差が大きくなったり、ガラスブリック自体が既製品ではなく、今回のための特注なので、モノ自体の誤差もあり、施工スピードが一気に遅くなった。だが、施工者も当初は慣れない内容だったが、続けているうちに少しずつコツが掴めてきたようで徐々に施工の早さが盛り返してきた。

施工開始から4日目に再び現場を訪れたが、半分近く施工が終わっていた。仕事振りが初日に比べれば慣れてきたものの、それでも手間のかかる作業なので、苦心している様子だった。ただ、仕上りはとてもきれいだった。積み上がった後も、シーリングやボルト締め等、他の工事もあるが、なんとなく終わりが見えてきたので、気持ち的にほっとした。

この建物はいろいろな個性的な部分があるが、それでもこのガラススクリーンが最も重要なこの建物の個性の部分なので、その実現性が見えてきたことは心からうれしく思えた。ただ、ガラススクリーン工事が終われば全てが終わりでもないので、この建物がしっかりとした完成を迎えられるように今後も気を引き締めて現場監理を行っていこうと思う。

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