建築設計の仕事の進め方

自分で10年間建築設計事務所を営んできて導き出した仕事の進め方は以下の通りである。

・プレゼン、プロポーザル
1週目:調査・計画(敷地確認、法的制限調査、関連資料の収集、ラフプランの作成)
2週目:作図(revitでの作図、twinmotionでのパース作成、説明文言の内容検討)
3週目:仕上げ(提案内容の再確認、図面レイアウトのチェック)
→提案図面提出

・実際の案件の工程(例-木造2階建て、延床面積40坪、1,2週間に1回ペースの打合せや現場監理)

(参考)工程表

以下、注意事項

・「基本設計」は打合せ、「実施設計」は設計。両方が完全に終わって初めて着工できるし、その時点で着工すべき

・図面1枚を書くのに検討を含めると1日では終わらない。1日以上かかることを忘れずに
(計画内容は確定している前提で、かつ、毎日作業したとしても図面50枚なら最低でも2カ月はかかる)

・設計中、着工中の3件程度が動いている状況を作る
(案件が増えすぎるとクォリティーが落ちる)

・図面は打ち出して確認すること。設計とは確認すること

・50坪の家と100坪の家では作業手間が異なる。単純に2倍ではない。それ以上である。
工程には余裕をみること。

・新たな価値観を提案したいなら、その価値を理解し協力してもらえる優秀な人を探し出すべき(建築主、構造設計者、設備設計者、施工者、そして、何より自分自身を優秀にさせる)

・特殊な内容は専門業者を探せ(木製サッシ、ガラススクリーン等)

・詳細図は下記の流れで進める
①参考になる本を見ながら手書きで検討、②CAD化、③打ち出した図面に赤入れ、④2と3の繰り返し

・シンプルな建物はRevitltのみで良いが、複雑な建物(壁厚の種類が多い、枠納まりが複雑等)はCADが適している

・建築主を必要としない設計を目指す(自らが建築主となる)

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生存権、平等権(2023司法試験-憲法)

・論点①:年齢要件(生存権と立法裁量)

・社会権
:生存権(25)、教育を受ける権利(26)、勤労の権利(27)、労働基本権(28)

・生存権
:「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25)

・朝日訴訟(最大判S42.5.24 Ⅱ-131)
:①25条1項はすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように、国政の運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に具体的権利を賦与したものではない(プログラム規定)
②何が「健康で文化的な最低限度の生活」であるかの判断は厚生大臣の裁量に

・堀木訴訟(最大判S57.7.7 Ⅱ-132)
:「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない」

(参考判例)
・学生無年金障害者訴訟(最判H19.9.28 Ⅱ-134)
・生活保護基準改定による老齢加算廃止(最判H24.2.28 Ⅱ-135)

・論点②:性別要件(平等権と事柄の性質)

・法の下の平等
:「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(14Ⅰ)

事柄の性質に応じた合理的な根拠のない法的な別異取扱いの禁止

・法適用の平等ではなく、法内容の平等

・絶対的な平等ではなく、相対的な平等
:恣意的な差別は許されないが、法上取扱いに差異が設けられる事項(例えば税、刑罰)と事実的・実質的な差異(例えば貧富の差、犯人の性格)との関係が社会通念からみて合理的である限り、その取扱い上の違いは平等違反ではない

(参考判例)
・尊属殺重罰規定判決(最大判S48.4.4 Ⅰ-25)
・国籍法違憲判決(最大判H20.6.4 Ⅰ-26)
・堀木訴訟(最大判S57.7.7 Ⅱ-132)

参考文献
:憲法〔第八版〕・芦部信喜(岩波書店)
 憲法判例百選Ⅰ〔第7版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

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下地工事から仕上工事へ

現在工事中の案件は下地工事がおおよそ終わり、仕上工事へと進んでいる。来月には懸案だったガラススクリーン工事も始まり、工事は佳境へと進む。

この建物はロ準耐火建築物である。ロ準耐火建築物と聞いてもぴんと来ない人がほとんどだと思うが、一般的には鉄骨造のALC外壁の建物のことを指し、今回のように木造の建物でそれをすることは稀である。さらに、この建物は3階建ての住宅で、かつ、200㎡超のため、法的には竪穴区画が発生する。竪穴区画があるとその部分は防火設備で閉じる必要があり、非住宅なら一般的だが、住宅ではこれも稀なパターンである。そのため、結構な時間をかけていろいろと調べた結果、ほぼ木造の建物だがロ準耐火建築物にすれば竪穴区画を回避でき、またそのような建物も世の中に実際にあることが分かり、事前に構造設計者や確認検査機関にその旨を伝えて、後から大きな手戻りがないように下準備を入念に行った。

だが、蓋を開ければ構造設計者も確認検査機関もその特殊性をあまり具体的に認識しておらず、大きな手戻りが発生した。私自身は事前にそれが分かっていたからこそ、それを関係者に繰り返し伝えていたが、結局そのような状況を回避できなかったことが悔しい。

また、世の中に木造のロ準耐火建築物は実際に存在しており、その具体例も調べて理解した上で設計図を作成したが、結局、確認検査機関としてはそのやり方は認めない、ということで作業の手戻りも発生した上にコスト増になってしまった。その全ての経緯を建築主にも伝えたが、特に怒る訳でもなく嘆く訳でもなく、仕方がない、の一言で終わらせてもらったことに建築主へ感謝もしつつ、それ以上に申し訳なさで一杯だった。

ガラススクリーンと木造のロ準耐火建築物という特殊内容で時間と労力をかなり費やしたが、今、ようやくそれらの工事が始まろうとしている。経験則上、だからこそ、ではないが、現場はいたって順調である。

特殊なことはリスクも生じる。だからこそ、時間と労力をかけてそのリスクをできるだけ低減するようにするが、何事も絶対はない。だが、絶対に近づく努力は突き詰めなければならない。プロとして仕事をするなら、「努力はしました、頑張りました」では済まされない。結果でしか物事を語れない。図面を書き終えて何カ月も経ち、現場も今は順調に進んでいるが、ふとした時にガラススクリーンは無事施工できるのか、ロ準耐火建築物の納まりはあれで本当に問題なかったか、等が脳裏をよぎる。すべきことはやったのだから、あとは待つしかできないが、それでもまだできることがあるなら労を惜しまずに最善を尽くしたいと思う。

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いろいろな連絡のやり取り

設計の仕事は連絡のやり取りの連続であると言える。良い連絡もあれば悪い連絡もある。設計依頼の連絡。建材メーカーからの営業の連絡。建築主との打合せのやり取りの連絡。設計者から建材メーカーへの問合せ連絡。施工者への見積依頼の連絡。工事が始まれば現場監督とのやり取りの連絡。日々、メールや電話でひたすら連絡を取り続けている。

設計依頼の連絡と言えば、設計事務所を営む前は設計事務所ってどうやって仕事を取ってくるのだろうかと謎だった。実際に自分でやってみて分かったことはやっぱり謎ということだ。事務所を始める前はそんなに多くなくとも突然電話が鳴って、「設計をお願いします。」という連絡が年に数回でもあるものだと思っていた。今から振り返れば楽観的すぎる。年に1回でもそんなことがあれば、明日はひょうが降るんじゃないだろうかと思ってしまう。実際は最初から設計依頼ありきの連絡はほぼなく、「困っているので、助けてもらえませんか。」というパターンがほとんどだ。かつ、直接的に知っている人からはほぼなく、間接的に私を知っている人からの連絡が多い。そして、その困りごとがたまたま設計依頼に繋がったという結果論でしかない。

また、困っているから助けるという流れが多いとしても、それが本来の設計の仕事に繋がるかどうかの確率で言えばさらに低くなる。

突然電話が鳴って「ある企業の社宅の計画があるので、手伝って頂けませんか」という連絡は毎年1回は必ずある。1回目は有難い話だと鵜呑みしかけたが、話を聞く内に明らかに怪しいので途中で逃げたが、最近ならその手の電話とすぐに分かるようになったので、相手が話し出して20秒以内には内容と結果がイメージできて、ご苦労様です、とすぐに電話を切れるようになった。成長したもんだ。

また、数年に1回ペースだが、「今後、何棟も施設建設を計画しているが、とりあえずの1棟目として計画作成を手伝ってもらえないか」の相談の連絡も来る。このパターンは補助金が絡んでいたりするので、計画図がないと話が前に進まない。そのため、まず何度も打合せをして計画図を作成して行政に相談に行くわけだが、ほとんどの場合、補助金の雲行きが怪しくなると、やり取りしていた担当者からあれだけ連絡が来ていたのにぷっつりと連絡が来なくなる。さらには連絡をしても繋がらなくなる。初期の頃は朝方までかかって図面を修正したり、役所に足繁く通っていたが、直近では初回のたたき台としてのプラン作成は行うが、それ以降の業務は設計監理契約を締結して着手金を払ってもらわない限り、手伝わないようにしている。

相手が建築主であっても詐欺師であっても連絡のやり取りをする時に心掛けていることがある。当たり前と言えば当たり前のことだが、一期一会ではないが、その時たまたま縁があって今まさにこの瞬間にやり取りをしているのだから、それには感謝するようにしている。何かが違えばやり取りすることもなく出会うこともなかった人達かもしれないからだ。だが、私自身もさらには相手にとっても時間と労力の無駄にはならないようなやり取りを心掛けている。双方にとって有意義でないと意味がないからだ。例え、相手が詐欺師だとしても。

いろいろな人とやり取りをしてきて、一番思うことは、世の中にはいろんな人がいるな、ということだ。良くも悪くも。ただどんな人とのやり取りでも一期一会の気持ちで自分自身に誇れるやり取りが結局正しいのだと思う。

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役員責任査定決定、資産状況調査、否認権、再生債権、自認債権(2024司法試験-倒産法)

〔設問1-1〕破産管財人Dは代表取締役Bの任務懈怠に基づく損害賠償責任の追及のため、破産法上、いかなる手続が認められるか(条文知識問題)

・破産財団(34Ⅰ)
:破産債権者に対する配当の基礎となる、破産者の資産及び負債
↓よって、
A社のBに対する損害賠償請求権は破産財団に帰属
↓しかし、
責任追及を判決手続によって行うことは迂遠
↓そこで、
破産管財人は裁判所に役員責任査定決定の申立て(178Ⅰ)

原因となる事実を疎明(178Ⅱ)、役員を審尋(179Ⅱ)

役員責任査定決定に不服のある者は異議の訴えの提起(180)

役員の財産に対する保全処分(177)

〔設問1-2〕債権者からの資産開示の求めを拒絶するBに対して、破産管財人及び裁判所は資産状況調査のためにいかなる手続を利用することができるか(条文知識問題)

・破産者が破産手続において負う義務
①破産者は破産管財人等の求めに応じ、破産者の財産の内容や所在、破産に至った経緯など、破産に関して必要な説明をする義務を負う(40Ⅰ)
②破産手続開始決定後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金等の重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない(重要財産開示義務)(41)

説明及び検査の拒絶等(268)、重要財産開示拒絶等(269)、業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等(270)の場合には、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金

・破産管財人及び裁判所に認められる手続
①破産管財人による、説明請求権及び物件検査権の行使(83)
↓(求めに応じない場合)
刑事罰の付加(268Ⅲ)
②裁判所は破産管財人の職務遂行のために必要があると認めるときは、郵便物等を破産管財人に配達するように嘱託することができる(81Ⅰ)
③破産管財人は嘱託された破産者宛ての郵便物等を開いて見ることができる(82Ⅰ)

〔設問1-3〕否認権の行使について

・否認権
:破産手続開始前の詐害行為・偏頗行為の効力を破産手続上否定し、処分・隠匿された財産を回復し、また債権者の平等弁済を確保する制度
↓(一般的要件)
①有害性
:否認対象行為は破産債権者全体に対して有害なものである必要がある
(否定例-担保目的物によって被担保債権を代物弁済したような場合には当該目的物価額と債権額とが均衡していれば、否認しても再び別除権が実行されて同一の結果がもたらされるので、当該代物弁済は有害性を欠き、否認が否定)
②破産者の行為性
:否認の対象となるのはいずれも「行為」である
(否定例-破産債権者のする相殺は、それが偏頗弁済と同一の結果をもたらすものであっても、債務者の行為がないので否認されない)
③行為の不当性
:(否定例-否認対象行為の目的が破産者の生活の維持や労働者の賃金の支払資金の捻出にあるなど行為の内容、動機、目的等に鑑み、破産法秩序よりも高次の法秩序や社会経済秩序に照らし、保護に値する利益が破産者の行為にあれば、否認の対象にしない)

・詐害行為
:債務者の財産隠匿・処分に関する行為

・偏頗(へんぱ)行為
:一部債権者に対する優先的な弁済行為

・詐害行為否認(160、161)

・破産者が破産債権者を害することを知りながら行った行為を否認(160Ⅰ①)
・支払停止または破産手続開始申立ての後にされた詐害行為についての否認(160Ⅰ②)
・対価的な均衡を欠いた代物弁済の否認(160Ⅱ)
・無償行為の否認(160Ⅲ)

・破産者が相当な対価を得てした処分行為については以下の要件を破産管財人がすべて立証できた場合に限って否認を認める(161Ⅰ)
①その行為が不動産の換価等による財産種類の変更によって破産者の隠匿・無償供与など破産債権者を害する処分のおそれを現に生じさせるものであること
②破産者がその行為の当時、隠匿等の処分をする意思を有していたこと
③行為の相手方が破産者のそのような意思を知っていたこと

・偏頗行為否認(162)

・原則的な基準時は支払不能の時点(162Ⅰ①)
・支払不能は支払停止により推定(162Ⅲ)

〔設問2-1(1)〕再生計画の可決要件(民再172条の3Ⅰ各号)

①議決権者の過半数の賛成
・議決権者は債権者集会に出席した者、または書面投票した者(169Ⅱ②)
②議決権者の議決権総額の2分の1以上の賛成
・民再87条1項各号に応じて算定し、170条2項各号ないし、171条1項各号に基づき確定される

〔設問2-1(2)〕再生手続開始前後の債権の分類および議決権の有無

・再生債権
:再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(84Ⅰ)

再生手続開始前の債権は再生債権に当たる

87条1項1号から3号には分類されない
↓よって、
同項4号に基づき、債権額が議決権の算定基準となる

・再生手続開始後の遅延損害金は84Ⅱ②に該当

再生債権となるものの、議決権は認められない(87Ⅱ)

〔設問2-1(3)〕外国の通貨により額が定められた債権の評価

・外国通貨で定められた金銭債権は「再生手続開始時における評価額」に従い、議決権が定められる(87Ⅰ③ニ)

〔設問2-1(4)〕再生手続において届出がされなかった債権の決議時および計画遂行時の取扱いについて

・自認債権
:再生債務者等が届出がされていない再生債権の存在を知っているときは自認する内容・原因等の事項を認否書に記載しなければならないとするもの(101Ⅲ)
↓ただし、
・自認債権については議決権は認められない
(議決権者を「届出再生債権者」に限定(170、171))
・計画弁済の対象にはなる(157Ⅰ、179Ⅰ)

自認債権から漏れた債権も失権はせず、時期的に弁済を劣後化する(181Ⅰ③、Ⅱ)

〔設問2-2(1)〕再生債務者から届出内容につき異議が出された場合の再生債権者の権利行使についての手段

・債権調査期間の末日から1か月以内に認めなかった再生債務者等や異議を述べた再生債権者の全員を相手方として、裁判所に再生債権の査定を申立て(105)(決定手続による簡易な債権確定の方法)

査定の申立てについての裁判に不服のある当事者は、その裁判の送達から1か月以内に異議の訴えを提起(106)
↓(趣旨)
簡易な査定手続で確定すべきものは確定させ、どうしても争いの残るものだけ訴訟手続で決着

〔設問2-2(2)〕違約金請求権は再生債権として認められるか

・民再49条1項に基づく解除が契約で定められた違約金条項のトリガーとなりうるかが問題

違約金条項は高額な違約金を通じ、解除権行使を事実上制約するため、倒産解除特約と同じく、倒産法上の解除は違約金を発生させる契約の解除とは異なる(名高H23.6.2 78)

参考文献
:倒産処理法入門〔第6版〕・山本和彦(有斐閣)
 倒産判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)

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