学問の自由(2022司法試験-憲法)

・学問の自由(23)
:学問研究の自由(内面的精神活動の自由である思想の自由の一部)、研究発表の自由(外面的精神活動の自由である表現の自由の一部)、教授の自由

・学問の自由の保障の意味
1)学問研究はことの性質上、外部からの権力・権威によって、干渉されるべき問題ではない
2)学問の自由の実質的裏付けとして、教育機関において、学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障すること

・大学の自治
:大学における研究教育の自由を十分に保障するために大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするもの

1)人事の自治
2)施設・学生の管理の自治

・参考判例

学問の自由と大学の自治-東大アポロ事件(S38.5.22 Ⅰ-86)
国立大学の内部問題と司法審査-富山大学事件(S52.3.15 Ⅱ-182)

決定①:研究助成金の不交付決定、決定②:「地域経済論」の不合格者の成績評価を取り消し、他の教員による再試験、成績評価を実施するとの決定、に対しての憲法上の主張

・決定①について

憲法23条(学問の自由)は大学における各研究者の学問研究の内容やその遂行としての研究活動の自由を保障する。公権力(政治的圧力等)により、研究内容や研究活動の遂行を不当に制約されない
↓もっとも、
同規定は研究内容や研究活動の遂行のための助成金の支給を受けるための請求権までを保障するものではない
↓よって、
決定①はYの学問の自由を制約していない(形式的判断)
↓他方、
助成金の不交付により、十分な研究活動の遂行ができなくなり、実質的な制約になるとも考えられる
↓そもそも、
学問の自由は一般市民に広く保障されることに加え、「大学における学問の自由」の保障の側面を有し、そこには大学の自治や教授の自由も含まれる(東大アポロ事件参照)。また、大学における助成金の配分の在り方などを含め、大学内部での自律的決定権限が広く認められる
↓また、
各研究者の真の意味での学術的研究を行うことが前提であり、特に助成金が交付されて支出される事柄が政治的活動等の学術的研究外の目的に使われることは不適切である。学術的活動と政治的活動の切り分けが難しい場合でも、それら研究内容を総合的に判断し、助成金交付の有無を大学側が自律的決定権限で判断することは許されると解される。
↓以上より、
助成金の対象となる研究課題及びその利用形態が、真の意味で学術的研究のためとなっているのかどうかといった点について、大学内部における当該決定が適切な手続きを経て決定されているかどうかの精査が求められる

X大学は外部からの意見を聞いたものの、①の決定は大学自らが検討を始めている。また、Yの研究の政策批判を直接的な問題とするのではなく、特定の政治的意見表明や団体Cのための活動に助成金を使用していたことを問題視している。また、それを判断するにつき、適切な決定手続きが採られている
↓以上から、
決定①は憲法23条に照らして妥当な決定と解される

・決定②について

憲法23条は大学における各研究者の「教授の自由」を保障する。大学における教授の自由と単位認定とは密接な関係にあり、単位認定行為は基本的に大学の自主的、自律的な判断に委ねられている(富山大学事件参照)
↓そこで、
単位認定に関して、大学による自律的判断が求められる一方で、各教授の権能あるいは利益を不当に制約することがあってはならない。学内における学術的見地からの内容面、手続き面での適正な審査を経て判断されるべきである

内容面で言うと、Yによる成績評価では団体Cに入った者には全て「S」が付いていることからすると、外形的に均衡が採られているとは言えず、学術的観点からなされた判断であると考えることが難しい部分が散見される。また、手続き面で言うと、学生からの異議申し立てがあった後、Yの異議申し立ての機会を経た上で、教授会の議を経て行われており、学内における適正な手続きが採られている。また、評価の著しく低い学生に関してのみ再評価の対象とし、教員の単位認定に係る利益については部分的な制約になるように調整が図られている
↓以上から、
決定②は憲法23条に照らして妥当な決定と解される

参考文献
:憲法〔第八版〕・芦部信喜(岩波書店)
 憲法判例百選Ⅰ〔第7版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

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人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である

人間、暇だとどうしても悪いことを考えがち。まだ今年は終わっていないが、今年は仕事は忙しいものの、建設費高騰の影響もあり、予算の都合で仕事が止まっているような状況の案件が多かった。

コロナ禍の時は状況が状況だけに建築主から仕事を進めるのを待ってくれと言われ、待ち続けた挙句、その時に動いていた案件が全て吹き飛んだ。案件が止まった時もパニックになったが、全てが仕事として吹き飛んだ時もさらにパニックになった。設計事務所の仕事は毎月給料が支払われる訳ではない。建築主の望む建築物が完成するように日々、手を動かし頭を使って、その完成が現実化して初めてその対価としての設計料を支払ってもらえる。また、状況が変わったからすぐに建ててくれと言われても、工事ができるレベルの設計図書の準備にはとても時間がかかる。だから、建築主から手を止めてくれと言われても、先々を考えれば完全に手を止める訳にもいかないが、案件自体がなくなり設計料が支払わなければその手を動かし頭を使った、時間と手間は無意味と化す。

だが、日々、いろいろな出来事があるが、少し深呼吸してその出来事を眺めれば、その瞬間は悲劇であったり辛い出来事かもしれないが、時間を置いたり距離を取って眺めてみれば、悪いことばかりではないし、良い事の場合ですらある。

今年は下手すれば思考停止で悪い方向に思考が行きかねない状況ではあった。コロナ禍の時の記憶が甦った。今年はコロナの代わりに物価高騰かもしれないとも思えた。だが、良くも悪くも今までの経験から細心の注意を払いつつも、その悪い思考に捕われず、その時その時にすべきことをしっかり行い、近視眼的に物事を見ないように注意していけばそんな悪いことにならないことは分かっていたので、黙々と作業を続けた。結果、工事中の案件も設計中の案件もより良い方向に進んでいけそうだ。逆に、この停滞した時間があったからこそ設計を深める時間を作れたように思う。

複数の止まっていた案件が時を同じく、動き出そうとしている。年中無休で働いているが、今年の年末年始もバリバリ手を動かし頭を使うことになりそうだ。ただ、思考停止せずにすべきことをしておいたおかげで多少なりとも時間に追われ続けることなく、楽しく設計作業を進められそうだ。

設計事務所をやっていくには、さらには他の商売や仕事でも同じことのように思うが、悲劇や喜劇のような出来事が誰の元にも起こってくるが、物事は必ず両面を見る必要がある。そして、勝手にどちらかと決めつけることも良くない。結局、その両面を見極め、すべきことをしっかりやっていくことが唯一の方法なんだと思う。

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破産財団、自由財産、取戻権、否認権、継続的給付契約、共益債権(2023司法試験-倒産法)

〔第1問〕〔設問1〕(1)各財産の破産手続において破産財団に属するかの検討
①P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨
②現金90万円
③Cの遺産である600万円の預金債権
④Cの死亡による1000万円の保険金請求権

・破産財団(34Ⅰ)
:破産手続開始時に破産者が有する一切の財産(国内外問わず)

・自由財産
:破産財団に帰属しない破産者の財産
(1)破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産)
(2)差押禁止財産
※99万円(66万円(民事執行法131③、民事執行法施行令1条)に2分の3を乗じた額)(34Ⅲ①)
(3)破産管財人が財団から放棄した財産

・参考判例 破産財団の範囲(2)-保険金請求権(H28.4.28 24)
:死亡保険金請求権は破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である

①P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨

破産手続開始時に破産者が国外に有する財産のため、破産財団に属する

②現金90万円

差押禁止財産99万円以下の金額のため、破産財団に属しない

③Cの遺産である600万円の預金債権

破産手続開始後に相続により取得した財産であり新得財産のため、破産財団に属しない

④Cの死亡による1000万円の保険金請求権

破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づく請求権であるため、破産財団に属する

〔第1問〕〔設問1〕(2)貯蓄型医療保険に基づく請求権について破産財団に帰属することを肯定しつつ、なお申立代理人の立場に立って本件保険契約を継続する方法がありうるか

・自由財産の拡張(34Ⅳ)
:破産手続開始決定から原則として1カ月以内に裁判所は破産者の申立てにより、または職権で破産者の生活状況、破産手続開始時の自由財産の種類・額、破産者の収入の見込み等の事情を考慮して自由財産の範囲を拡張できる

破産裁判所に対して自由財産の拡張の申立てをすることが考えられる。しかし、医療保険による配当原資の増大は解約返戻金を含めても見込めず、すでに99万円を大きく超える自由財産を既に得ている
↓よって、
単なる自由財産の拡張は破産債権者と破産者の衡平を欠くことになり、認められない可能性が高い
↓そこで、
上記請求権を破産財団から放棄(78Ⅱ⑥)するよう求めることが考えられる
↓もっとも、
単なる放棄では自由財産の拡張と同様に破産債権者と破産者の衡平を欠くことになるため、解約返戻金40万円を支払うことと引き換えに破産財団から上記請求権を放棄するように交渉すべきである。同請求権が破産財団に帰属する前提に立ったとしても、解約返戻金しか配当原資として期待できないため、自由財産からの40万円の組入れと引き換えに同請求権を破産財団から放棄するという運用は破産債権者と破産者との衡平を欠くものではないことになる

〔第1問〕〔設問2〕(1)甲不動産の登記請求権について

・取戻権(62)
:破産手続開始時に外見上は債務者の財産に帰属するように見えても他人の所有物が紛れ込んでいる場合がある。その場合、破産管財人に対し、その返還を求めることができる

・参考判例 財産分与金と取戻権の成否(最判H2.9.27 51)
:財産分与金の支払いを目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方は右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である

・Dの取戻権が認められるならば破産手続によらずに登記請求権を行使することが可能(62)
↓反論として、
・財産分与請求権は破産債権に過ぎず、破産手続によらなければ行使できない(100Ⅰ)
↓しかし、
この反論については財産分与が金銭の分与の形で行われた場合には妥当するとしても、本件のように不動産が財産分与の対象となる場合、Dの請求権は共有状態にあった不動産甲に対する持分権という物権的請求権に基づく分割請求として構成できるため、上記反論は本件には妥当しないとの再反論が可能である
↓次いでの反論として、
本件はDへの甲不動産所有権移転登記未了のままAの破産手続が開始されている所、破産管財人は差押債権者類似の存在であり、したがって、登記なくして対抗することができない「第三者」である(民法177条)という主張が考えられる。この反論に対しては、破産管財人は民法254条が規定する「特定承継人」に該当し、上記「第三者」には該当しないとの再反論が可能である
↓よって、
本問でのDの登記請求権の行使は認められる

〔第1問〕〔設問2〕(2)不相当とはいえない範囲での財産分与につき、否認権の行使が認められるか

・否認権
:破産債権者にできるだけ多額かつ平等な配当を保障するため、破産手続開始前の、債務者の財産隠匿・処分に関する行為(詐害行為)や一部債権者に対する優先的な弁済行為(偏頗(へんぱ)行為)の効力を破産手続上否定し、隠匿・処分された財産を回復し、債権者の平等弁済を確保する制度
↓(一般的要件)
・否認対象行為は破産債権者全体に対して有害なものでなければならない(有害性)
・破産者の行為性(⇔相殺は否認されない)
・行為の不当性

・Aが支払不能となった後にDはその事実を認識しつつ財産分与請求権という債権の満足を受けているため、偏頗行為否認については162条1項1号イの要件(支払不能後の債務消滅行為及び債務者支払不能についての債権者の悪意)を満たしている。また、Aに支払の停止があり、かつDがAの支払停止まで認識していれば160条1項2号に基づき、詐害行為否認の要件も満たされることになる

Dの反論として、財産分与は清算的要素を持つため、否認権は成立しないと主張している。否認権成立の一般的要件として不当性が要求されるところ、当該財産分与は民法768条3項の規定の趣旨に照らして不相当に過大であり、財産分与に仮託して財産処分であると認めるに足りる特段の事情がない限り、不当性を欠き、否認権の行使は認められないと主張
↓しかし、
上記反論は民法上の詐害行為取消し及び詐害行為否認を射程とするものであり偏頗行為否認は射程外である。また、財産分与のうち、金銭給付を目的とする部分については一般の破産債権として扱われるべきであり、財産分与請求権も特別な扱いはされない。そして、本件は扶養的要素に当てはまるものの清算的要素の方が強く、上記反論は本件では当てはまらないという再反論がありうる。
↓よって、
Dの反論は認められず、Xの主張する否認権が認められる

〔第2問〕〔設問1〕民事再生手続における継続的給付契約(電気の供給契約)の扱いについて
①令和4年9月分(1日~30日分)(支払期限:令和4年11月10日)
②令和4年10月分(1日~30日分)(支払期限:令和4年12月10日)
③令和4年11月分(1日~30日分)(支払期限:令和5年1月10日)

・再生債権(84Ⅰ)
:再生債権者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権

再生手続の開始により再生債権の弁済は原則として禁止(85Ⅰ)

・継続的給付契約を目的とする双務契約に関し、相手方は再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては再生手続開始後はその義務の履行を拒むことができない(50Ⅰ)。ただし、共益債権とする(50Ⅱ)

・①に関して再生計画の定めるところに寄らなければ相手方に弁済することはできないが、相手方も弁済がないことを理由に義務履行を拒むこともできない

・共益債権
:特に手続開始後に発生した債権を中心に再生債権者共同の利益となるような債権は共益債権とされ、随時に優先して弁済される(破産手続における財団債権に相当するもの)

再生手続に寄らずに随時弁済を受けることができ(121Ⅰ)、再生債権に優先して弁済される(121Ⅱ)

〔第2問〕〔設問2〕B社のA社に対する敷金返還請求権の取扱い(破産法と民事再生法の異同)

(破産法)
・自働債権が停止条件付の債権である場合には、停止条件が将来成就した場合の相殺の利益を保護するために、破産債権者が履行期の到来により弁済した自己の債務額について、破産管財人に対し寄託することを求めることができるものとしている(破70前段)
敷金返還請求権を有する賃借人が破産手続開始後に賃料を弁済する場合も同様に寄託請求が認められる(破70後段)
↑(原則)
・破産債権者による債務負担に基づく相殺については、破産手続開始後の債務負担に基づく相殺は全面的に禁止(破71Ⅰ①)

(民事再生法)
事業継続のための資金確保という観点から、破産法のような寄託請求は認めていない。その一方で、賃借人保護のために、再生手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務について賃借人が弁済期に弁済をしたときは、賃料の6カ月分を限度として敷金返還請求権が共益債権となることを認めている(92Ⅲ)。限度額については、相殺により消滅する賃料債務の額は控除される(92Ⅲ括弧書き)

参考文献
:倒産処理法入門〔第6版〕・山本和彦(有斐閣)
 倒産判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

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完成に向けて

完成が近づいてきた工事中の案件で建築主と現場監督も交え、現場打合せを行った。大きな変更内容等はないものの、発注段階になった今の段階でメーカー都合で一部廃番になっていた仕様があったり、他の仕上がっている部分との兼ね合いで再検討した方が良い部分等もあり、約3時間の打合せとなった。終わりは見えてきたものの、まだまだ気を抜けない状況である。

建物自体は年内の完成に目途が付いたが、その後工程の植栽工事が年末が近いこともあって工事完了が年内では難しく、年明けに完了する予定となったため、引渡しも年明けにすることになった。建築の現場はどうしても玉突き的に物事が進むためになかなか思ったようには動かない。それでも職人さんに無理をさせて仕上りが悪くなっては意味もないので、焦っては欲しくないが、急いではもらいたいという矛盾した状況に陥りがちだ。

予定では2026年の1月末の引渡。打合せが始まったのが2023年の2月なので、結局、初回打合せから引渡しまでちょうど3年かかったことになる。ガラススクリーンの仕上がりに喜んだこともあれば、確認検査機関とのやり取りで怒りが爆発しそうになったこともある。構造検討のやり取りで哀しい気分になったこともあれば、建築主との打合せが楽しかったことも思い出される。本当にいろいろとあった。設計案件としては、今までで一番時間もかかったが、自分の設計事務所開業後ちょうど10年目の節目となる案件になったようにも思う。

現場に通うのも残り数えるほどとなった。建築主の依頼で設計して引渡しまでが仕事だから当然なのだが、この家と接する機会がいったんは終わることが悲しく思える。それぐらいに思える建物の設計をこれからも続けていきたいと思う。

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領置と捜査比例の原則、実況見分調書と伝聞証拠(2023司法試験-刑事訴訟法)

〔設問1〕領置と捜査比例の原則

・捜査①の適法性(ごみ置き場に投棄されたごみの領置について)

・領置(221)
:被疑者その他の者が遺留した物、又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物の占有を取得する処分のこと。占有の取得に強制を伴わず任意処分であり令状も不要
↓しかし、
いったん領置すれば押収差押えと同じ効果(強制処分に準じ、捜査機関は返還を拒める)

・捜査比例の原則
:正当な目的を達成するために「必要」かつ「相当」な範囲で行わなければならない

・捜査の正当な目的達成のために必要であることが合理的に説明できなければならない(必要性)
・実現される具体的な捜査目的と、その副作用として生ずる個人の権利・利益等の制約・侵害等の弊害の間には合理的な均衡が保たれなければならない(相当性)

・当該ごみ袋の占有が排出者から回収者等の第三者に移転していたかどうか(被告人の住むアパートの大家が第三者に当たるかどうか)

本件アパート住人は、ごみを排出するに当たり、まずアパート敷地内のごみ置き場に捨てるように予め大家から指示を受けており、その後大家の分別チェックを経た上で、大家により公道上のごみ集積所に搬出されることを了解していた

物理的な管理支配関係は排出者から大家に移転するので、ごみ袋の占有は排出者から回収者等の第三者に移転していると言える

・ごみ袋の中身に対する排出者のプライバシーの期待への侵害が相当かどうか(ごみの排出者はそのまま収集されて他人にその内容が見られることはない、という期待を有しているが、警察署に持ち帰り、開けて内容を確認されることは押収物に対する必要な処分として適法か(222Ⅰ、111Ⅱ))

・犯人である可能性の高さ、犯行に使用した衣類等をごみとして処分する可能性、犯行日がごみの回収日であること等を考慮するとごみ袋を開けて内容を確認する必要性が認められる。(必要性)

・また、ごみの中身を見られたくない期待は認められるものの、もともと大家からの分別チェックが予定されており、予め特徴を確認しておいたごみ袋だけを領置している(相当性)
↓よって、
必要性を踏まえるならば、本件開封行為によるプライバシー侵害もやむを得ない範囲にとどまっており、相当である

・(参考判例)ごみの任意提出・領置(東高裁H30.9.5 百選8)
:本件紙片等の入っていたごみ1袋を含むごみ4袋は、その所有者が任意に提出した物を警察が領置したものであり、ごみの捜査を行う必要性は高く、合理性もあった。また、管理会社等の了解を得て、ごみ袋を絞り込み、開封するごみ袋を極力少なくしており相当な方法で行われた
↓よって、
必要性、合理性、相当性を満たし、任意提出を受けて領置した捜査手続は適法である

・捜査②の適法性(公道上に投棄された容器の領置について)

・公道上に投棄された容器は遺留物といえるか

遺留物とは、自己の意思によらず占有を喪失した場合だけでなく、自己の意思で占有を放棄した場合も含むと考えられる
↓よって、
公道上に投棄された容器は遺留物として占有を取得しても問題ない

・容器から唾液を採取してDNA鑑定を行ったことは必要な処分として適法か(222Ⅰ、111Ⅱ)

・犯人の逃走経路の捜査から、犯行に用いられたと考えられるゴルフクラブとマスクが発見され、特にマスクの内側からは犯人のものと考えられるDNA型が検出されていること、また、そのDNA型は警察のデータベースには登録されていなかったことから、甲と犯人との同一性を判断するために、甲のDNAサンプルを入手する必要性があった。そして、本件容器には、サンプルたりうる唾液が付着していたのだから、本件容器の領置を継続するかどうか判断すると共に、その証拠価値を担保するためにもDNA鑑定を実施する必要があった(必要性)

これに対し、個人のDNA型は要保護性が高いプライバシー情報であり、みだりに他者に知られたくないと期待しているかもしれない。しかし、本件容器をボランティアに返すでもなく、ごみ箱に捨てるでもなく、公道上に投棄しており、当該容器及びそれに付着した利益も含め第三者の処分に委ねたものと解しうる。また、容器の裏側にマークを付けて、使用した容器のみ回収するよう対象の限定を図っている(相当性)
↓よって、
必要性を踏まえると、唾液のサンプルとしてDNA型鑑定を行ったことも必要やむを得ない範囲にとどまるものといえ、相当である

〔設問2〕伝聞証拠について

・実況見分調書①の証拠能力について

・伝聞法則(320Ⅰ)
:公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない
↓(主旨)
・重要なのは相手方当事者に対して反対尋問による供述証拠の吟味の機会を与えることにあり、そして、当事者による反対尋問は当事者対抗型訴訟の不可欠の要素である。知覚・記憶・表現・叙述のプロセスが必要である

・伝聞証拠(伝聞法則によって排除される証拠)
:公判外の供述を内容とする供述または書面で、当該公判外供述の内容たる事実の真実性を証明するために用いられるもの

・伝聞例外(321-328)
:伝聞証拠であっても例外的に証拠能力が認められる。以下の列記内容の通り

・供述書
:供述者が自ら作成した書面
・供述録取書
:供述者が行った供述を別の者が書き留めた書面

・裁判官面前調書(1号書面)(321Ⅰ①)
:裁判官の面前における供述を録取した書面
↓(要件)
①供述不能、②自己矛盾供述

・検察官面前調書(2号書面)(321Ⅰ②)
:検察官の面前における供述を録取した書面
↓(要件)
①供述不能、②自己矛盾供述

・3号書面(321Ⅰ③)
↓(要件)
①供述不能
:供述者が死亡、精神もしくは身体の故障、所在不明、または国外にいるため、公判準備または公判期日において供述することができないこと
②不可欠性
:当該供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであること
③特信性
:当該供述が特に信用すべき情況のもとにされたものであること

・被告人以外の者の公判準備または公判期日における供述を録取した書面(321Ⅱ前段)、裁判所または裁判官の検証の結果を記載した書面(検証調書)(321Ⅱ後段)

無条件で証拠能力が認められる

・捜査機関の検証調書(321Ⅲ)
:検察官、検察事務官、または司法警察職員の検証の結果を記載した書面につき、その供述者が公判期日において承認尋問を受け、それが真正に作成されたものであることを供述したときに証拠能力を認めている

・鑑定書(321Ⅳ)
:鑑定の経過および結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても3項と同様の扱い

・被告人の供述書・供述録取書(322Ⅰ)
↓証拠能力が認められる要件
・被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、または特に信用すべき情況のもとにされたものであるときのいずれか

・特信書面(323)
:公務文書(戸籍抄本、印鑑証明書、等)、業務文書(航空日誌、医師のカルテ、等)、その他特に信用すべき情況のもとに作成された書面(公の統計、学術論文、等)

・伝聞供述
:公判期日または公判準備における被告人以外の者の供述のうち、
①被告人の公判外供述を内容とするものについては322条の規定を準用(324Ⅰ)、
②被告人以外の者の公判外供述を内容とするものについては321条1項3号の規定の準用(324Ⅱ)により、証拠能力が判断される

・同意書面(326Ⅰ)
:検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述

・合意書面(327)
:検察官と被告人又は弁護人とが合意した上で、文書の内容や証人として公判に出頭すれば供述することが予想される供述の内容を記載して作成した書面

・弾劾証拠(328)
:証拠とすることができない書面又は供述でも公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うための証拠

・本件調書は公判外で観察した事実を報告する書面であり、押収された同種のピッキング用具を用いて犯行時に設置されていたのと同じ特殊な錠を解錠した状況である
↓そうであれば、
犯人性を証明する間接事実として関連性を肯定しうる
↓よって、
実況見分調書①は伝聞証拠であり、その証拠能力は原則として否定される

・弁護人が不同意の意見を述べていることから(326Ⅰ)、伝聞例外の要件を満たす必要がある

実況見分調書については明文で規定されていないが、客観的な対象を五官の作用により観察するという点で検証と実質は異ならない(321Ⅲ)
↓よって、
実況見分者を証人として尋問し、作成の真正等を確かめた上で証拠能力を認めることは可能である
↓ただし、
写真及び各指示説明が実況見分の範囲を超え、供述を録取したものと言えるか問題となる

公判外のものではあるが、知覚・記憶した事実の報告は含まれておらず、解錠能力を示したにすぎない
↓よって、
実況見分調書①は321条3項のもと、証拠能力を認めることができる

・実況見分調書②の証拠能力について

・実況見分調書②についても、公判外において、被害状況を検察官が観察した事実を内容とするもので、弁護士が不同意の意見を述べていることから、実況見分調書①と同様に321条3項のもと、証拠能力を認めることができる
↓しかし、
弁護人が「犯人性を争う」と主張している本件事実関係のもとで、単に被害状況だけを証明しても、争点との関連性を肯定し得ない。むしろ、添付された写真及び指示説明については、実質的には2号調書として、被害状況を要証事実とすることで初めて関連性を肯定しうる
↓したがって、
321条3項により検察官を証人尋問するだけでなく、写真及び指示説明につき、検察官の面前で供述を録取したものとして321条1項2号前段の要件を満たす必要がある

被害者は交通事故で死亡していることから、写真及び指示説明のいずれも供述不能要件を満たす。しかし、写真については録取の機械的正確性が期待できるため、署名・押印は不要だが、指示説明については署名・押印を欠くため、証拠能力は認められない
↓以上より、
実況見分調書②について、調書全体については321条3項により、また添付の写真については321条1項2号前段により証拠能力を認めることができる

参考文献
:LEGAL QUEST 刑事訴訟法〔第3版〕・宇藤崇、松田岳士、堀江慎司(有斐閣)
 刑事訴訟法判例百選〔第11版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

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