当事者の確定、自白の撤回、主観的追加的併合、書証及び文書(2022司法試験-民事訴訟法)

〔設問1〕課題1.本件訴訟の被告が甲となるような見解、乙となるような見解について

・当事者(意義)
:自己の名において訴え、または訴えられることによって判決の名宛人となる者

・当事者の特定(意義)
:誰が誰に対して当該訴えを提起するのかを明らかにする原告の行為

・当事者の確定(意義)
:裁判所が特定の事件の当事者が誰であるかを判断する作業

・形式的表示説
:当事者の確定に当たって、訴状の当事者欄の記載のみを基準

本件訴状の当事者欄には「被告Mテック、代表者A」と記載されており、乙のことを指している
↓したがって、
この見解によれば乙が被告となる

・実質的表示説(通説)
:当事者欄の記載に限らず、請求の趣旨・原因その他記載事項を含めて、訴状の全体から総合的に当事者を確定

本件訴状の当事者欄に記載されている「被告Mテック、代表者A」とは訴状の請求の趣旨・原因を見る限り、Xが本件賃貸借契約を締結した会社である。その時点では乙は存在していなかったのだから、訴状において表示されている被告は乙と商号・代表者が元々同一であった甲を意味している
↓したがって、
この見解によれば甲が被告となる

・参考判例 法人格の実質的同一性(最判S48.10.26 6)

〔設問1〕課題2.仮に被告を乙と確定した場合、裁判所は第2回口頭弁論期日における乙の代表者としてのAの陳述につき、自白が成立していると取り扱うべきか。仮に自白が成立しているとすると、再開後の第3回口頭弁論期日における自白の撤回をどのように取り扱うべきか。

・自白(意義)
:相手方の主張を争わない旨の当事者の陳述、または、その結果として生じた当事者間に争いのない状態
・裁判上の自白(意義)
:訴訟の口頭弁論または弁論準備手続において、当事者の一方が相手方の主張する自己に不利益な事実を認める陳述のこと
↓(要件)
1)口頭弁論または弁論準備手続における弁論としての陳述であること(弁論としての陳述)
2)事実についての陳述であること(事実の陳述)(判例は主要事実のみ)
3)相手方の主張との一致があること(主張の一致)
4)自己に不利益な陳述であること(不利益性)(判例:証明責任説(相手方の証明責任からの解放))

・自白の効果
1)証明不要効(179)
:自白された事実は証拠による証明を要しないものとする効果
2)判断拘束効
:裁判所は自白された事実を必ず判断の基礎にしなければならないとする効果
3)審理排除効
:裁判所は自白された事実に関して審理を行ってはならないものとする効果
4)撤回制限効
:当事者は自白の撤回ができなくなるものとする効果
↓(例外)
・自白撤回の要件
1)相手方が自白の撤回に同意した場合
2)相手方または第三者の刑事上罰すべき行為によって自白をするに至った場合(338Ⅰ⑤)
3)自白された事実が真実であるという誤信に基づいて自白がなされた場合(参考判例 自白の撤回の要件(大判T4.9.29 53))

・本件では、Aは、第2回口頭弁論期日において、相手方Xが証明責任を負う、請求原因事実について、これを認めている
↓したがって、
自白の要件に照らして、自白が成立していると評価できる

・Xが問題文中で主張する事実は、実際にはXと甲との間で起こった事実であって、Xと乙との間で起こった事実ではない。したがって、甲と乙が別人格であることを前提とする限り、Aの陳述は真実に反すると評価できる。しかし、Aの当該自白は訴訟を遅延させることを目的としたものであって、自白事実が真実であると誤信したことに基づくものではない
↓したがって、
Aの自白は錯誤に基づくものではないことを理由に撤回できない

〔設問2〕甲を被告に追加するXの申立ては認められるか

・主観的追加的併合(意義)
:係属中の訴訟において、当事者を追加すること

・参考判例 主観的追加的併合(最判S62.7.17 91)
:主観的追加的併合を否定する理由
1)併合前の訴訟状態を新たに追加された当事者との関係で当然に利用できる保障がなく、かえって訴訟を複雑化させるおそれがある
2)軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれがある
3)事後的に共同訴訟を作り出したければ新たに被告として追加したい者を相手取って別訴を提起した上で裁判所による弁論の併合を待てば足りる

・従前のX乙間の訴訟状態をX甲間の訴訟において利用し、審理の重複を省略することで訴訟経済に資すると言える。また、両訴訟を併合して審理を行うことはその審理の中でAが乙を設立した経緯等が明らかにされることで、本件の紛争実態に即した矛盾のない判断が可能になるため、訴訟を簡明にすると言える。さらに、上記理由により訴訟の遅延も防止することが期待される。また、Aの不誠実な行為がある本件に限ってXに主観的追加的併合を認めても軽率な提訴が誘発されることはないと考えられる
↓したがって、
Xの主観的追加的併合の申立ては認められる

〔設問3〕「文書」の定義。また、USBメモリが「文書でないもの」に当たることを論証すること。その上で、USBメモリを取り調べることが許容される理由を明らかにすること

・文書(意義)
:文字やその他記号によって、作成者の思想を表現した有形物

・書証(意義)
:文書に記載されている作成者の意思や認識を閲読して読み取った内容を事実認定のための資料とする証拠調べ

・文書に準ずる物件への準用(231)
:この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する

・USBメモリは文書に当たらないが、一定の情報を表現できるという点で文書ないしテープ類に類似する。
↓したがって、
USBは「その他の情報を表すために作成された物件で文書でないもの」(231)に該当する

・「文書でないもの」(231)は書証の方法による証拠調べに馴染む
↓したがって、
USBを書証によって取り調べることは許容される

:LEGAL QUEST 民事訴訟法〔第4版〕・三木浩一、笠井正俊、垣内秀介、菱田雄郷(有斐閣)
 民事訴訟法判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

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取締役の解任、任務懈怠責任、商号続用責任(2022司法試験-商法)

〔設問1〕Dは一連の経緯により甲社の取締役の地位を失ったことは実質的な解任であって不当であり、甲社に対して会社法上の損害賠償請求を追求しようと考えている。Dの立場において考えられる法律構成及び損害に関する主張並びにそれらの当否について

・取締役の解任
:取締役は任期中いつでも株主総会の決議により解任できる(339Ⅰ)

任期中に解任された取締役は解任に正当な理由がある場合を除き、会社に対して損害の賠償を請求できる(339Ⅱ)
※株主総会による解任の自由の保障と任期に対する取締役の期待との調和
・参考判例 取締役解任の正当事由(最判S57.1.21 42)

・Dが取締役任期を短縮する定款変更に伴う退任および不再任により甲社の取締役の地位を失ったことは実質的な解任であり、会社法339条2項の類推適用により甲社に対して報酬相当額を損害賠償しうる
↓本件を見るに、
意見対立を理由とした定款変更によるDの狙い撃ちであり、取締役の業務に緊張感を持たせることを理由とする定款変更であるとAらは主張するが、保有株式比率を考慮すると形式的理由でしかない
↓したがって、
会社法339条2項の制度趣旨である、株主総会による取締役解任の自由の保障と取締役の任期に対する期待の保護との調和を考慮すれば、同項の類推適用により不再任に正当な理由がない限り、解任と評価することができ、損害賠償請求できる
↓また、「正当な理由」とは、
役員等に職務執行上の不正行為や法令定款違反行為があった場合や心身の故障などにより客観的に職務遂行に支障を来すような状態になった場合、職務遂行に著しく不適任または能力欠如の場合などに認められる一方で、取締役相互間の対立や株主との対立の結果としての解任の場合には認められない
↓そして、損害に関して、
甲社において乙社出身の取締役は選任から4年で退任するという慣例があり、それをDはAから説明され、了承していたことを考慮すると、残りの2年分の報酬相当額が損害といえる
↓以上より、
Dは甲社に対して会社法339条2項類推適用により、2年分の報酬相当額の損害賠償を請求することができる

〔設問2〕株主Jは株主代表訴訟を提起して、戊社代表取締役Gに対し、本件事業譲渡契約を締結する旨の判断をして実行したという一連の経緯について、会社法上の損害賠償責任を追及しようと考えている。Jの主張及びその当否について

・任務懈怠責任(423Ⅰ)
:役員等(取締役、監査役、会計参与、執行役、会計監査人)が任務を怠った場合は株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
↓(要件)
1)取締役等の任務懈怠
2)会社の損害の発生
3)任務懈怠と損害の相当因果関係
4)任務懈怠についての帰責事由(故意、過失)の不存在

・取締役と株式会社の委任関係
:取締役等は株式会社の管理・運営に関する事務を処理する者であるから会社との間で委任の関係に立つ(330)。例えば、取締役等は善良な管理者の注意をもって、会社の事務を処理する義務を負う(民644)
↓ただし、
経営判断の結果として、会社に損害が生じた場合に安易に善管注意義務違反を認めると取締役はリスクを取らなくなり、会社・株主の利益に相反する。そのため、経営判断は取締役に広い裁量を認めるべきであり、その判断の過程と内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反と解するべきでない(経営判断原則)

・本件事案において、デューデリジェンスを省略する判断に関して、乙社は業績悪化に伴い急激に財務状況が悪化し、それに伴い在庫価値が下落している可能性があったこと、また知的財産権等の管理もいい加減であったこと、それによりデューデリジェンスを行うべきであるという弁護士の回答があったことから、デューデリジェンスにより譲渡対象事業の実態を調査する必要性が認められ、Gもこれらの事情を知っていた。その他事情を考慮しても、戊社の利益から見れば、デューデリジェンスを省略するメリットは小さく、デメリットは大きい
↓以上からすると、
Gの善管注意義務違反が認められ、任務懈怠が肯定される。また、帰責事由の不存在を根拠づけることも困難である(要件1,4)
↓また、
戊社はデューデリジェンスを行っていれば本件事業譲渡契約を締結しなかったであろうといえ、その後に発生した評価損等はGの任務懈怠と因果関係がある損害といえる。そして、デューデリジェンスを行ったとしてもその対価は1000万円以下となるはずだったといえるならその差額がGの任務懈怠と因果関係がある損害といえる
↓よって、
Jにより提起された株主代表訴訟において、Gは戊社に対して上記損害を賠償する責任が認められる

〔設問3〕丁銀行が戊社に対して乙社の残債務の弁済を請求できるか

・譲受会社の商号続用責任(22Ⅰ)
:事業の譲渡において、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、譲受会社はたとえ事業譲渡契約において債務の引受けをしていなかったとしても譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負う
↑(趣旨)
・商号が続用される場合、譲渡会社の債権者は事業譲渡がなされたことを知り得ず、譲受会社は譲渡会社と同一の主体であると信じる可能性があり、仮に知り得たとしても譲受会社は譲渡会社の事業を全て承継したと信じることが通常であると考えられるため、その信頼を保護する必要がある(外観保護説)
・参考判例 ゴルフクラブの名称の継続使用と商法17条1項(会社法22条1項)の類推適用(最判H16.2.20 商法判例百選18)

・本件では登録商標Pは譲渡会社である乙社の商号「乙」を含み、消費者には乙社を示すものと受け取られていた。そのため、登録商標Pは本件事業譲渡前に日用品製造販売事業の事業主体として譲渡人乙社を表示する機能を有していたと言える。そして、本件事業譲渡後は戊社は同社の店舗内で登録商標Pを描写した看板を入口に掲げるとともに、同社のウェブサイトにおいて登録商標Pを含む宣伝を掲載するなどを行って、登録商標Pを使用した日用品を販売している。これにより、登録商標Pは単なる商品の識別表示ではなく、事業主体の表示として用いられていると言える。また、事業譲渡後に戊社が扱う登録商標Pが使用された日用品の6割程度は従来乙社が登録商標Pを使用して販売していたものと同じ商品であり、事業の同一性が見出される。そして、従来乙社の商品を扱ったことがなく、その商号や店舗名称に「乙」の文字や登録商標Pに含まれる文字を使用していなかった戊社が、本件事業譲渡後、前記のように登録商標Pを用いている。そのため、登録商標Pは譲渡対象事業の主体が本件事業譲渡後は譲受人戊社であることの表示として機能していると評価できる。
↓もっとも、
会社法22条1項の類推適用が外観保護を理由とするなら、丁銀行のような銀行は商号等の継続的使用という外観により事業主体を誤認する可能性は低い。そこで、会社法22条1項が詐害譲渡に対する救済として機能している実態を加味し、詐害性や事業譲渡の手続に債権者が関与する必要性が同項類推適用を正当化する事情と考えることができる。

本件では、乙社にとって廉価譲渡であり、戊社はペーパーカンパニーではなく実態のある会社である。また、乙社は純資産がゼロになるだけで債務超過となる訳ではない。それらを評価すると、詐害性の程度はそれほど高くない。だが、残債務の弁済期日が経過した後に事業譲渡が行われており、丁銀行としては重大な利害関係を有し、本件事業譲渡の手続に関与する必要性が高かったと評価できる。
↓したがって、
本件事業譲渡について会社法22条1項の類推適用は認められる
↓よって、
丁銀行は戊社に対して、乙社の残債務の弁済を請求できる

参考文献
:会社法〔第4版〕・田中亘(東京大学出版会)
 会社法判例百選〔第4版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

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資生堂アートハウス、豊田市美術館、豊田市博物館

先日、ネットニュースを見ていると、資生堂アートハウスが来年の6月末で閉館するとのこと。資生堂アートハウスと言えば、私が大好きな建築家、亡くなられた谷口吉生氏の設計した初期の建物。一度も見たことがなく、築約50年でもあり、近い内に無くなる可能性もあると思われ、これは見に行かねばと思った。

道順を調べていると、資生堂アートハウスは静岡県掛川市にあるが、通り道には豊田市もある。だったら、もう何回行ったか分からないがコロナ禍以降は行けていなかった豊田市美術館も合わせて行こうと思った。さらにそういえば隣に私の中で最近流行っている建築家の坂茂氏設計の豊田市博物館もある。ここ最近、いろいろな事が一区切りついたこともあり、久しぶりに建築ツアーに出かけようと思いついた。

余談だが、最近の私の中での日本のトップの建築家は坂茂氏だと思う。谷口吉生氏は別格だが。世界で言えば、ジャン・ヌーベル、ビャルケ・インゲルス、MVRDVだ。日本が停滞しているかは関係ないかもしれないが、この人達の本を探すと必ず洋書に辿り着いてしまう。日本の本なら10年以上前に出版したものばかり。日本よ、もっと頑張ってくれ。

朝から新神戸を出発して、静岡県掛川市に向かった。JR掛川駅に降り立つ。静岡県の地を踏むのは初めてなんじゃないだろうかと考えながら徒歩20分で資生堂アートハウスに辿り着いた。建物に近づくにつれ、谷口氏らしい建物の外観が見えてきた。気持ちが高揚するような、ほっと落ち着くような何とも言えない気分のまま、エントランスから美術館内に入っていく。エントランスもそうだが、豊田市美術館と同様に高さのメリハリが心地よく感じた。また、建材や色味を多くは使っていないので、その高さのメリハリが一層引き立つ。資生堂アートハウスは谷口氏の初期の作品だが、その後に続く建物と遜色なく、要所要所に抑制と抑揚が付いていて、とても素晴らしい建物だった。

JR掛川駅
資生堂アートハウス外観
エントランス付近
展示室室内
排煙窓のハンドルをさりげなく隠している

資生堂アートハウスに隣接して企業資料館があった。外装は同じ仕様なので、この建物も谷口氏が設計したのだろうかと思い、館内に入ってみると、明らかに空間の質が悪い意味で異なる。おそらく、資生堂アートハウスに倣って建てた建物だろうと考え、念のために受付の人に設計者について尋ねるとやはり設計者は別だった。設計者が変わるとここまで空間の質が変わってしまうのかと驚いてしまった。ある意味、一番の収穫だったかもしれない。

資生堂企業資料館のエントランス

掛川市に滞在1時間程度で次に愛知県豊田市に向けて出発した。旅行ではなく、建築を見に行くための移動でしかないので、できるだけコストを抑えるため、JRや私鉄を乗り継いで移動した。また、新幹線だとすぐに着く利点はあるが、ある意味、味気ない。少し余計に時間がかかったが、行ったこともない途中の浜松市や豊橋市等の街並みを車窓越しに眺めながらの移動となった。

前回、豊田市美術館に来たのがいつかは定かではないが、確実にコロナ禍前だったので、かなり久しぶりの訪問となった。だが、数えきれないぐらい訪れているので、入口に立った時点で家に帰ってきたような気分になった。相変わらずエントランスの高さの抑揚が素晴らしいなと思いながら、外から建物全体を眺めた。今まで何となくは思っていたが、ランドスケープデザインはピーター・ウォーカー氏が担当しているが、このランドスケープがあるからさらにこの建物はさらに昇華されているようにも思った。来る度にいろいろな発見がある。次に来るのはいつかは分からないが、必ずまた来ようと思った。

豊田市美術館入口
エントランス付近の廊下。この天井高と開口部の関係性が気持ちが良い。
建物とフレームの構成や高さ関係が何とも言えずに合っている。
水盤と美術館の風景
印象的な内部空間
フラットバーと棒鋼で製作している手摺

そして、今回さらなる楽しみとして、坂茂氏の設計の豊田市博物館が隣に出来ていて、初めての来訪だったので、わくわくしていた。木をふんだんに使っていて、屋根は格子梁のような構成。期待感を膨らませつつ、内部へ。ホールを抜けて正面玄関側へ移動しつつ、館内を見渡す。すごい建物だなと思いつつも、すごい建物なだけかとも思った。ついさっき、豊田市美術館を見てしまったからかもしれないが、空間構成であったり、細かなディテールだったりを見ると、美術館と比べると見劣りしてしまった。ただ、あなたにこの建物の設計ができますか、と問われれば、何とも言えない。この規模の建物なら関係者の調整だけでも大変だったであろうし、この建物の構造を成り立たせるのにも想像するだけで多大な労力があったことが予測される。また、これだけ木を使うことで配慮・検討すべき項目も膨大だったことは予想が付く。だが、次に豊田市美術館を来訪する時には博物館には足を運ばないだろうなとも思った。だがそれでも、今の日本のトップ建築家は坂茂氏とも思った。ランドスケープも何とも言えない違和感を感じたが、後から調べると、美術館と同じ、ピーター・ウォーカー氏。彼なのに何故?と考えていて、さらに調べると、彼の息子さんがメインで博物館の方はランドスケープデザインを行っているとのこと。世襲制が通じる世界もあるが、実力勝負の世界では世襲はなかなか難しいなと、ぼそっと思った。

豊田市博物館の入口廻り
博物館内部
博物館前のランドスケープ
博物館正面玄関側

今回、久しぶりに思い付きに似た感じで建築を見に足を伸ばした。本当は今動いている案件の作業量を考えればそれどころではないぐらいに時間が惜しい状況ではあるが、それでも自分自身の建築的な栄養補給にこの旅は行くべきだと考え、各建築を見て廻った。結論は分かっていたが、やはり谷口吉生氏の設計した豊田市美術館が私の心を掴んで離さない。いろいろな良い所、特徴的な所は何度も来ているから分かってはいるが、究極的には何がそこまでに私の心を掴んでいるのかがまだ分からない。それが分かるまで今後もきっと何度も訪れることになるだろう。そんな風に思える建築に出会えたことは幸せなことだと思う。また、いつかは私もそんな豊田市美術館を超える建築を、できることなら美術館を設計してみたいと思う。

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ショールーム

設計するにあたって、様々なメーカーの商品を採用する。よく使う仕様もあれば、建築主の要望によっては初めて接する建材もある。また、理想を言うなら、全てオリジナルの製作品で作れるならそれに越したことはないが、金額が跳ね上がる。そのため、既製品にお世話になることは多い。

場合によっては建築主とその製品を作っているメーカーのショールームに行くこともある。星の数ほど建材や商品はあるので、その全てをショールームで確認することはできないが、これは実際にショールームで見ておいた方が良いという場合は同行してもらうことがある。

また、その建材等を勧める私自身がいろいろな建材や商品自体を知らなければ勧めようもないので、たまに最新の商品確認のためにカタログを取り寄せたり、一人でショールームに行くこともある。先日、大阪の現場に行くまでに時間の余裕が少しできそうだったので、最近気になっていたショールームを一人見学に行ってきた。

最初に行ったのは旧サンワカンパニーのミラタップ。この会社はネット販売が主なので、今まで多くは採用したことがないが、たまに建具や巾木等、ちょっとした所で使わせてもらっている。既製品はどうしても既製品の感じが出て、設計者からするとそれをできるだけ感じさせないかに気を配ったりすることが多い。商品にも寄るが、ミラタップの商品は他の大手建材や住設メーカーに比べると、その既製品感が気にならない商品もあったりするので、最新情報を仕入れに訪れた。

中グレードのキッチン。大手メーカーのものよりも仕様は良くてコストも抑えられそう
建具関連。物によってはこてこての既製品感が強いものもあれば、そうでないものもあった。

その後、アイカを訪れた。アイカのショールームは初めて訪れたが、住宅や非住宅に関わらず、建物のいろいろな場所でアイカ製品は使わせてもらっている。特に外壁の塗装材はサンプルをいくつも取り寄せて、建築主に何度も確認を繰り返すことが多いが、大判のサンプルもたくさんあり、ここで見れば全体像が分かり易いかもしれないと思えた。また、カタログだけでは分からないことをいろいろと教えてもらったので、来た甲斐があったという感じだった。

キッチンパネル等の水を使う場所での壁等の仕上げ材
同じ柄でも耐水性、耐久性、コスト等で種類がたくさんある
主に外壁に使う塗装材。柄や色味で分けていくとどれだけの種類があることやら

大手の建材・住設メーカーはまとまって立地していることが多いが、そうでないメーカーは会社の所在ごとにバラバラに立地していることが多い。各メーカーを廻ることは骨も折れるが、実際にショールームに行って、そのメーカーの最新情報を聞くことで設計に生かせる部分もある。設計者たるもの、手を動かし、足を動かし、日々勉強し続けていくことが重要だと改めて思った。ただ、既製品の情報等も重要だが、そればかりではとてもより良い建築を作り上げるのも不可能とも思えるので、既製品と製作品の使い分けをしっかり認識しながら今後もより良い建物の設計を行っていきたいと思う。

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不動産物権変動と第三者・転得者・詐害行為取消権、賃貸借と譲渡担保、死因贈与と遺言撤回(2022司法試験-民法)

〔設問1(1)〕AB間の通謀虚偽表示における第三者CがAに対して甲土地の引渡しを請求したことに対し、Aはこれを拒むことができるか。

・通謀虚偽表示
:真意でない意思表示であって、意思表示の相手方との間に通謀があった場合
↓(原則)
通謀虚偽表示は無効(94Ⅰ)
↓(例外)
当事者は善意の第三者に対しては、通謀虚偽表示であることを理由とする無効を主張することができない(94Ⅱ)(無過失は要しない)

・第三者
:新たにその当事者から独立した利益を有する法律関係に入り、法律上の利害関係を有するに至った者

・不動産物権変動と第三者

公信の原則
:ある権利がある権利主体に帰属していないにもかかわらず、その者にその権利が帰属しているかのような公示がされている場合には、この外形を信頼して取引に入った者は外形に対応する権利を取得すること

動産については認められるが(192)、不動産については認められない
↓ただし、94条2項類推適用し、
虚偽の外形(不実の登記)の作出(AB間)につき帰責性(非難可能性)のある真の権利者(A)は保護に値せず、外形(登記)を信頼して取引に入った第三者(C)の保護の必要性、を理由に第三者の保護を図る

①意思外形対応型(外形自己作出型(積極的意思)、外形他人作出型(黙認))
(Aに通謀虚偽表示の認識有り、帰責性大)
→94条2項類推適用により第三者を保護
↓(要件)
(ⅰ)Cが取引行為により甲土地所有権を取得したこと
(ⅱ)取引行為時に甲土地の登記名義がBであったこと
(ⅲ)取引行為時に、Bが所有者であるとCが信じたこと
(ⅳ)甲土地所有権の登記名義人がBであったことについてのAの意思的関与
②意思外形非対応型
(Aに通謀虚偽表示の認識はあるが善意、帰責性中)
→94条2項類推適用+110条の法意により第三者を保護
↓(要件)
(ⅰ)~(ⅳ)は上記と同じ
(ⅴ)Bを所有名義人とする登記を真実と信頼したことにつき、Cに正当な理由があったこと
③本人の意思によらない外形作出型
(Aに通謀虚偽表示の認識がない、帰責性小)
→94条2項+110条類推適用により第三者を保護

「自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべき」場合に、「民法94条2項、110条の類推適用により」虚偽の外観を信じ、かつ、そのように信じたことについて過失がなかった第三者の保護を認めている(民法94条2項・110条の類推適用 最判H18.2.23 Ⅰ-22)

・BC間で甲土地に関して売買契約(555)を締結しているが、所有権は依然としてAに在り、Cは甲土地の所有権を取得できない
↓しかし、
Cは甲土地についてBの所有権移転登記という虚偽の外観を信頼した結果、契約を締結している。登記に公信力はないが、94条2項の第三者として保護されないかが問題となる(本人の意思によらない外形作出型)

AB間の契約は通謀虚偽表示ではないため、94条2項を直接適用できない。だが、同条同項の基礎にある権利外観法理に鑑みれば、虚偽の外観、真正権利者の帰責性、外観に対する正当な信頼があり、本人の意思によらない外形を作出したのであれば、94条2項と110条を類推適用してCを保護しうる
↓本問においては、
Aは抵当権の抹消登記手続を委託したBの言葉を信じ、所有権移転登記手続に必要な書類一式を交付したことは帰責性を基礎づける。しかし、その行為は不動産取引の経験のないAがBの巧みな虚言に騙されたためである。Aが知るすべなくBは契約書の偽造を行い、短期間でCとの間で契約を締結している。これら事実に照らすと、Aに外観作出に積極的関与やあえて放置した事情は見られず帰責性を認めることはできないため、94条2項、110条の類推適用はできない
↓よって、
CはBの登記の外観が虚偽であることをAに対抗することができず、所有権を取得することはできないため、CがAに対して甲土地の引渡しを請求したことに対し、Aはこれを拒むことができる

〔設問1(2)〕AD間で甲土地の売買契約が締結されたが代金支払いは終えたが移転登記は未了。その間にAB間で売買契約し代金支払いと移転登記が完了。さらにBC間で売買契約し代金支払いと移転登記が完了。D(相手方)はC(転得者)に対し、甲土地につき、Dへの所有権移転登記手続をするように請求し(請求1)、それができないとしても、A(当事者)への所有権移転登記手続するように請求(請求2)した。それぞれの可否について。

・「真正な登記名義の回復」を原因とする移転登記
:所有権を有していない登記名義人のもとから所有権を有している者への登記名義を回復するための「真正な登記名義の回復」を登記原因とする所有権移転登記

・所有権の移転
:「当事者の意思表示のみによって」その効力を生じる(176)

・公示の原則
:買主が物権変動の事実を第三者に主張するためには当該物権変動が公示されていなければならない

・不動産物権変動の公示は登記(177)

・第三者
:物権取得等につき、登記の欠缺を主張するのに正当な利益を有する者(悪意者を含む)

・背信的悪意者
:登記の欠缺を主張することが信義に反する者
↓(要件)
1)物権変動があった事実についての悪意
2)信義に反するものと認められる事情
・参考判例 民法177条の第三者の範囲(2)-背信的悪意者からの転得者 最判H8.10.29 Ⅰ-61
:背信的悪意者からの転得者は転得者自身が背信的悪意者でない限り、第三者として保護される(相対的構成)

・請求1について
DはCに対し、請求1をもって真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求を行使している。これに対し、Cは177条にいう第三者であり、Dはすでに所有権を喪失していると反論する。また、BはDに損害を与えるという不当な動機に基づき契約を締結しており、背信的悪意者と評価できる
↓そうだとして、
背信的悪意者からの転得者は177条の第三者として保護されるかどうかは相対的に判断される

Cは契約締結に当たり、AD間の売買契約の存在やAの無資力を知っていたが、BにDを害する意図があることは知らなかった。そのため、Cは悪意者であるとしても、信義則に反するような事情はない
↓以上より、
Cは背信的悪意者ではなく、177条の第三者に該当する。
↓よって、
請求1は認められない

・詐害行為取消権(424Ⅰ)
:債務者が債権者を害するためにした行為の取消しを裁判所に求めることができる債権者の権利

取消訴訟の被告は受益者または転得者であり、債務者は被告適格を有しない
↓(被告が受益者の場合の要件)
①被保全債権が存在していたこと
②被保全債権の発生原因が詐害行為前に生じたものであること
③債権者にとって自己の債権を保全する必要があること(債務者の無資力)
④債務者が財産権を目的とする行為をしたこと
⑤その行為が債権者を害するものであること(詐害行為)
⑥その行為が債権者を害することを債務者が知っていたこと(債務者の詐害意思)
↓(被告が転得者(受益者から転得した者)の場合の要件)
①-⑥は受益者と同じ
⑦受益者が悪意であること
⑧転得者がその転得の当時、債務者がした行為が債権者を害する事実を知っていたこと(424の5①)

・請求2について
DはCに対し、詐害行為取消権を行使し、Aへの所有権移転登記手続を請求している
↓(詐害行為取消権の要件)
詐害行為取消権は責任財産の保全を目的とした制度であるため、被保全債権は金銭債権である必要がある
↓しかし、
①特定物債権である履行請求権も履行不能などに至れば填補賠償請求の金銭債権となり、被保全債権は存在するといえる
↓また、
②AD間の売買契約は詐害行為前の契約であり、③Aは十分な資力を有しておらず、④⑤⑥Aは債権者を害することを知りながら時価4000万円相当の甲土地を2000万円でBに売却しており廉価売却による財産減少行為であり、⑦Bもそれを知りながらCへ売却しており、⑧Cもそのことを把握していた。
↓以上より、
Dの詐害行為取消権は認められる
↓よって、
請求2は認められる

〔設問2〕Fはその所有する乙建物をGに賃貸する契約をGとの間で締結しGに引き渡した。そして、FはHから1000万円を弁済期を2年後とする約定で借り受け、その借入金債務(債務α)を担保する目的で乙建物をHに譲渡する契約をHとの間で締結した(契約⑦)。また、Fは借入金債務の弁済期が経過するまで乙建物の使用収益をする旨が合意された。その契約に基づき、Hへの乙建物の所有権移転登記がされた。Gはその後もFに対して賃料を支払っていたが、所有権移転登記されていることを知り、賃料を支払わなくなった。Fは債務αの弁済をしないまま、債務αの弁済期経過前に発生した賃料と弁済期経過後に発生した賃料の支払いをGに請求した(請求3)。

主張(ア)G:乙建物がHに譲渡されたので、Fに対して賃料を支払う必要はない、主張(イ)F:Hへの所有権移転登記がされているが、これは契約⑦に基づくものであって、賃貸人の地位が直ちにHに移転する効果を生ずべき譲渡があったわけではない、主張(ウ)F:仮にそのような譲渡があったとしても債務αの弁済期が経過するまでFが乙建物の使用収益をする旨の合意があるから賃貸人の地位は自分に留保されている、という各主張の根拠を説明した上で、Fの反論の当否を検討し、債務αの期限に留意して、請求3が認められるか論じなさい

・賃貸借契約(601)
:当事者の一方が相手方に対し、ある物の使用収益をさせることを約束し、相手方がこれに賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約束することによって成立(諾成、双務、有償契約)

・賃貸人の義務
1)賃借物を使用収益させる義務
2)修繕義務(606Ⅰ)
3)賃借人の法益に対する保護義務
・賃借人の義務
1)賃料支払義務(601、614)
2)用法遵守義務(616、594)
3)賃借物保管義務(400、615、606Ⅱ)
4)賃貸人の法益に対する保護義務

・不動産所有権の譲渡と賃貸人の地位の移転

不動産賃借人が当該不動産の譲受人に賃貸借を対抗することができるときは当該不動産の賃貸人たる地位はその譲受人に移転する(605の2Ⅰ)
↓(対抗要件)
・不動産賃貸借の登記(605)
・借地権者が登記されている建物の所有(借地借家法10)
・建物の引渡しを受け、その物権を取得(借地借家法31)

・譲渡担保
:AがBに融資するにあたり、Bが所有する機械甲の所有権を受けるというような担保形態。Bが借入金債務を弁済したならば甲の所有権はBに復帰するが、弁済がされない場合は私的実行を経て、甲の所有権はAに確定的に帰属する

・私的実行
:裁判所の競売手続を介さない担保実行
↓(対抗要件)
・不動産譲渡担保:登記
・動産譲渡担保:引渡しまたは動産譲渡登記
・債権譲渡担保:確定日付のある証書による通知もしくは承諾または債権譲渡登記

・譲渡担保の法的性質
1)所有権的構成
:設定契約時に所有権が完全に譲渡担保権者に移転
2)担保権的構成
:設定契約時には所有権は移転せず、私的実行によってはじめて譲渡担保権者に移転
3)設定者留保権
:譲渡担保設定契約時に目的物の所有権は設定者から譲渡担保権者に移転するものの、この所有権移転は譲渡担保権者の有する被担保債権を担保するためにされたものであるから譲渡担保権者のもとでの所有権は担保的な制約を受けている
→設定者のもとになんらかの物権的地位が留保されている
→譲渡担保権者に目的物の所有権が確定的に帰属するためには譲渡担保権の実行としての私的実行がされなければならない

・主張(ア)について
FからHに乙建物が譲渡された結果(605の2Ⅰ)、賃貸人の地位はHに移転しており、Gは既に賃貸人たる地位を失っており、賃料支払請求ができないと主張

・主張(イ)について
乙建物はあくまで債務αの担保目的でHに譲渡したのであり、このような譲渡担保は605条の2第1項にいう「譲渡」に該当しないと主張

・主張(ウ)について
譲渡担保設定により賃貸人の地位がHに移転するとしても、不動産譲渡人・譲受人間の賃貸人の地位を譲渡人に留保する合意(留保合意)と、不動産を譲受人が譲渡人に賃貸人に賃貸する合意(譲渡当事者間の賃貸合意)があれば、賃貸人の地位をFに留保することができる(605の2Ⅱ)

・請求3について
譲渡担保設定によって担保権者にいわば慣習上の物権である設定者留保権が差し引かれた所有権が移転する。あくまで担保目的ではあるものの、法形式としては所有権が移転することを考えると、605条の2第1項の「譲渡」による賃貸人の移転が生じることは否定できない。担保としての実質だけを根拠に賃貸人の移転を否定するならば、賃貸人の地位の帰属が曖昧になり、賃貸人の地位を賃借人に対抗するために登記を要した規定(605の2Ⅲ)の意義すら没却しかねない。
↓しかし、
譲渡担保設定により設定者Fに認められる利用権は物的な設定者留保権である。そうすると、賃借権よりも強い利用権原がFに認められる以上、厳密に賃貸合意ではないことだけを理由に605条の2第2項の適用を否定すべきではない。そして、譲渡担保権者Hに使用収益権はなく、設定者Fも利用権原に基づき賃貸人の地位を主張する以上、譲渡担保設定契約の合理的解釈により賃貸人の留保合意を認めることができる。
↓そして、
譲渡担保も担保の一つである以上、実行による清算というプロセスの省略は認められない。譲渡担保権の実行を完了し、設定者の使用収益を終了させるには、弁済期後に、第三者に処分するか(処分清算)、清算金を適正に評価してそれを設定者に提供するか(帰属清算)、いずれかの方法を採る必要がある。本問において、弁済期経過後、Hはそのいずれの手続も実行していない。そうすると、手続が完了するまでFは賃料を収受することができる。
↓以上より、
請求3は認められる

〔設問3〕Kは丙不動産を所有し、Kには子Lがいたが、かわいがっていた姪Mに丙不動産を与える旨の贈与契約を書面で締結した。その後、KとMの関係は悪化し、Kは丙不動産をN県に遺贈する旨の自筆証書遺言を作成し、LとN県に通知した。K死亡後、MはLに対し、贈与契約に基づき丙不動産のMへの所有権移転登記手続を求めた(請求4)。これに対し、Lは「贈与契約はその後にKの遺贈する旨の遺言により撤回されたはずである。」と主張した。
その主張の根拠を説明の上、Mからの反論を踏まえ、請求4が認められるか。

・死因贈与(554)
:贈与者の死亡によって効力が発生する贈与

・書面により契約した場合は解除できない(550)

・遺贈(964)
:被相続人が遺言によって他人に自己の財産を与える処分行為

・相続(882)
:被相続人の死亡により開始

・相続人
:被相続人の相続財産を包括承継することのできる一般的資格を持つ人

・第一順位の相続人:子(887Ⅰ)
・第二順位の相続人:直系卑属(889Ⅰ①)
・第三順位の相続人:兄弟姉妹(889Ⅰ②)

・相続の効力(896)
:相続により、被相続人のもとで形成されてきた財産関係が一体として相続人によって承継される。ただし、被相続人の一身に専属したものは相続の対象ではない

・遺言の撤回(1022)
:遺言は表意者の最終意思に対して法秩序が効力を与えようとしたものであるから、その裏返しとして、遺言者の生存中には、遺言により行われた意思表示を撤回するのは自由である

・撤回擬制
:以下の場合、遺言は撤回されたものとみなされる
1)前後の遺言が内容的に抵触する場合(1023Ⅰ)
2)遺言の内容とその後の生前処分とが抵触する場合(1023Ⅱ)
3)遺言者が故意に遺言書または遺贈目的物を破棄した場合(1024)

・Mは請求4をもってKM間の死因贈与の履行を求め、Lに所有権移転登記請求権を行使している。LはKの唯一の子であり、Kの権利義務を包括承継している。また、死因贈与は書面によるため、解除はできない。これに対し、Lは死因贈与は自筆証書遺言をもって撤回されたと反論している(1022、1023Ⅰ)。
↓確かに、
死因贈与は契約であり、単独行為たる遺贈とは異なる。しかし、死後の財産処分という点において、遺贈と類似するため、死因贈与についても贈与者の最終意思の尊重が妥当する。したがって、死因贈与にも1022条、1023条が準用される(554)。
↓以上より、
請求4は認められない

参考文献
:民法〔第3版〕・潮見佳男(有斐閣)
 民法判例百選Ⅰ〔第8版〕、民法判例百選Ⅱ〔第8版〕、民法判例百選Ⅲ〔第2版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

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