所持品検査、違法収集証拠排除法則、違法性の承継、強制処分法定主義(2024司法試験-刑事訴訟法)

〔設問1〕鑑定書の証拠能力について

・職務質問
:警察官は異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して、
①何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者、または、
②既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者、
を停止させて質問することができる。(警職法2Ⅰ)

・所持品検査
:明文の規定はないが、所持品検査は口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげる上で必要性、有効性の認められる行為であるから、任意手段である職務質問の付随行為として許容される場合もあると解するのが相当である。そして、任意手段である職務質問の付随行為として許容されるのであるから、相手方の承諾を得て行うのが原則である。それが捜索に該当するか、または強制にわたる場合には違法とされる。

・違法収集証拠排除法則
:証拠の収集の手続・手段に違法がある場合には、当該証拠の証拠能力は否定されなければならない
↓(排除法則の理論的根拠)
①司法の無瑕性論
:裁判所は違法収集証拠といういわば「汚れた証拠」を手にすることで自らの手を汚してはならない。
違法収集証拠を裁判手続で使用して処罰を行うならば、裁判所に対する国民の信頼が損なわれ司法不信をもたらす。それゆえそのような証拠は審理から排除されるべき
②違法捜査抑止論
:違法な手段によって収集された証拠の使用を禁止することで、将来において同様の違法な証拠収集活動が行われるのを抑止すべき
③適正手続論
:被告人の権利利益を違法に侵害する手段によって獲得された証拠を用いて当該被告人を処罰することはそれ自体、正義に反するものであり、適正な手続の保障を害する
↓(排除法則の実定法上の根拠)
違法収集証拠の排除を明示的に定めた法規定はない。証拠収集手続の違法が明白かつ著しい場合等には、獲得された証拠を公判で使用することによって手続全体が適正を欠くものになるため、憲法31条(適正手続の保障)等によって証拠排除が要請される
↓(排除の基準)
①違法の程度、②違法行為と当該証拠との間の因果性の程度、③同種の違法行為が行われる可能性・頻度、④当該証拠の重要性、⑤事件の重大性、等の諸般の事情を総合衡量して、排除が必要でありかつ相当であるといえる場合に証拠排除すべき(相対的排除論)

・違法性の承継論
:先行する違法な手続と最終的に得られた証拠との関係を論じるもの
・毒樹の果実論
:違法に収集された証拠がある場合にその証拠と最終的に得られた証拠との関係を論じるもの

上記2つの論は説明の仕方の違いにすぎない。
端的に違法な手続と当該証拠との間の「因果性(関連性)」の有無、程度の問題として論じれば足りる

〔設問2〕ビデオ撮影の適法性について

・検証
:一定の場所、物、人の身体につき、その存在や形状、状態、性質等と五官の作用(視覚、聴覚、嗅覚等の五感)によって認識する行為を強制的に行う処分
ex)カメラで対象を撮影する

・強制処分法定主義(197Ⅰ但書)
:捜査目的を達成するために必要な行為であってもそれが強制の処分に当たる場合にはこの法律に特別の定のある場合でなければこれをすることができない
↓(趣旨)
「強制処分」とは「相手方の意思に反して行われ、その重要な権利利益に対する実質的な侵害ないし制約を伴う処分(重要権利利益侵害説)」と定義した上で、197条1項但書は憲法31条の考え方を受けて、捜査目的達成のためにこのような処分を行うことを捜査機関に許すか否かは国民自身がその代表で構成される国会を通じて意識的かつ明示的に選択すべき事柄である旨の規定である

・捜査比例の原則
:捜査は正当な目的を達成するために「必要」かつ「相当」な範囲で行わなければならない

参考文献
:LEGAL QUEST 刑事訴訟法〔第3版〕・宇藤崇、松田岳士、堀江慎司(有斐閣)
 刑事訴訟法判例百選〔第11版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)

カテゴリー: 法律 | コメントする

自分自身のための格言

10年前に学生の頃からしたいと思っていた自身の設計事務所を開業し、建築と法律のプロフェッショナルになるべく、日々いろいろと考え続けてきて、気になったことは手帳に書き綴ってきた。手帳に書いては消してを繰り返して取捨選択してきて、未だに残っている選りすぐりの自分へ向けた格言。

・トラブルを起こす人と関わると自分もトラブルに巻き込まれる

・継続こそ力なり

・手を抜かないと心に決めること

・2:8パレートの法則は実際にある

・プロジェクトに見合う対価をもらってこそ、本当のプロフェッショナル

・目の前の仕事を精一杯行うこと、先々を考えて手を止めない

・期限は具体的に決めること

・頭に空白を作るようにすること。予定を詰め込みすぎない

・同じ日本人だからといって当たり前に日本語が通じると思うな

・仕事を時給で考えた時にプレゼン、雑務にそこまで時間はかけられない

・優れた作品を作り続けること。それがすべきことであり、できることの全てである

・物事をイメージで捉えてはいけない。事実だけが本当のこと。人も建築も。

・最善を尽くす

・間接の努力を地道に

・自分を超えていけ

・計画も作業もそれが楽しいかどうかを考える。楽しいことをすべき

・誰でもできることをやっても価値は生まれない。あなたにしかできないことをすべき

・「人」ってそんなもんだ。そんなことを思う状況になるぐらいなら優秀な人を探せ

・困難な状況と感じた時、そこからがスタートという気持ちで

・自分しか証人のいない試練

・人のことは信用すべき。ただ、信頼はしてはいけない。

・全体で捉えにくいものも細かく分割すれば把握できる

・少しずつで良いから、未来の自分にバトンを渡すように進め

・何事もしっかり考えるべきだが、全てをできるだけシンプルに収斂していくこと

・優先順位の高いものから手を付ける。「メイン」をメインに進めて、サブで気分転換

・日中に集中するためにしっかり寝ること


カテゴリー: 日々の出来事 | コメントする

強盗罪、窃盗罪、正当防衛、共同正犯(2024司法試験-刑法)

〔設問1-1〕甲の罪責

・傷害罪(204)
:人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
・「傷害」
:人の生理機能の侵害

・1項強盗罪(236Ⅰ)
:暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は強盗の罪とし、5年以上の有期拘禁刑
・客体
:他人の財物(他人が所有権を有する財物)
・「暴行又は脅迫」
:被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のもの
(本件の場合、反抗抑圧後に奪取意思を抱いており、新たな暴行脅迫が必要であるが、反抗抑圧状態が維持継続するものであれば足りる)
・「強取」
:暴行・脅迫により被害者などの反抗を抑圧して財物を奪取すること

・併合罪(45)
:確定裁判を経ていない2個以上の罪

〔設問1-2〕乙の罪責

・2項強盗罪(236Ⅱ)
:前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も同項と同様とする
・「財産上…の利益」
:債権など有体物以外の財産的権利・利益
↓しかし、
移転可能性に疑問のある情報やサービスなどを広く含めることができるかは問題
↓そこで、
移転を観念しうるような対価を支払うべき有償のサービスなどの財産的利益に限り、客体となりうると解する(ex.カードの暗証番号等)

・未遂(43)
:構成要件該当事実の実現に着手したが、それを成し遂げるに至っていない段階
・実行の着手時期(実質的客観説)
:既遂犯の構成要件的結果を生じさせる危険性が認められる行為への着手の時点で実行の着手が認められる

実行行為の危険性が現実化すると因果関係が肯定されて既遂となる

・窃盗罪(235)
:他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
・「財物」
:有体物(空間の一部を占めて有形的存在を持つ、固体・液体・気体)に限られる。(有体性説)(通説)
・財産的価値
:客観的な交換価値はなくとも、主観的な使用価値が認められれば足りる
・刑法における占有
:財物に対する事実上の支配(代理占有、占有改定等は認められない)
・占有の存否
:財物に対する支配(占有の事実)という客観的要件と、支配意思(占有の意思)という主観的要件を総合して社会通念に従い判断される
※①取得した財物に他人の占有が存在したか否か
:窃盗罪か、遺失物横領罪か
②取得した財物の占有が他人なのか、自己なのか
:窃盗罪か、横領罪か
・客体
:他人の財物(他人が所有権を有する財物)

現在の判例においては、占有侵害の存在により窃盗罪の構成要件該当性を肯定し(占有説)、行為者の権利行使の側面は違法性阻却において考慮する立場(独立説)が採られている
・「窃取」
:他人が占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転させること
・既遂時期
:行為者又は第三者が財物の占有を取得したとき
・不法領得の意思
:権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、利用・処分する意思(判例・通説)

・不能犯
:犯罪を遂行しようとする者の行為が外形的には実行の着手の段階に至っても既遂犯の構成要件的結果を惹起することが不可能であるため、未遂犯の成立が否定されて不可罰とされる場合
↓(判断基準)
一般人が行為の時点で認識可能な事実に基づいて、結果惹起の可能性・蓋然性を判断(具体的危険説)

〔設問2〕(1)丙に正当防衛が成立することの証明

・暴行罪(208)
:暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の拘禁刑、若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
・「暴行」
:人に対する物理力の行使

・正当防衛(36Ⅰ)
:急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

「刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることができないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。」(最判H29.4.26 Ⅰ-23)
・「急迫不正の侵害」
:違法な侵害が現に存在し、又は間近に押し迫っていること

「侵害を予期していたとしても侵害の急迫性は直ちに失われるものではない。」(最判S46.11.16)

「その機会を利用して積極的に相手に加害行為をする意思(積極的加害意思)で侵害に臨んだときには侵害の急迫性の要件は充たされないとしている。」(最判S52.7.21)
・「防衛するため」
:侵害に対応する意思としての防衛の意思が必要
・「やむを得ずにした行為」
:防衛行為の正当性

〔設問2〕(2)①甲の罪責

・幇助(62Ⅰ)
:正犯に物的・精神的な援助・支援を与えることによりその実行行為の遂行を促進し、さらには構成要件該当事実の惹起を促進すること

〔設問2〕(2)②丁の罪責

・共同正犯(60)
:「2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」

謀議・共謀に基づいて犯罪の実行が行われた場合には謀議関与者について実行行為の分担の有無を問わず、共同正犯としての罪責が問われることになる。

「共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれの要件を満たすかどうかを検討して決するべき」(最判H4.6.5 Ⅰ-90)

参考文献
:刑法〔第4版〕・山口厚(有斐閣)
 刑法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第8版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)

カテゴリー: 法律 | コメントする

断熱材の種類

図面、特に詳細図を書いていると、断熱材の選定で迷うことが多い。断熱材を選定するにも、コスト面で有利か、断熱性能としてこの数値で等級を満たせるか、水に弱いものと強いもので使い分けはこの考えで良いか、防火等の認定を使う場合にこの断熱材で対応できるか、等。この春からは住宅でも省エネ申請が必須となったため、なおさらである。

種類が多くて毎回迷うので、断熱材の種類をまとめてみた。以下の通りである。


Ⅰ.繊維系断熱材
①グラスウール
:リサイクルガラスなどを溶かし、遠心力で繊維状にしたもの。
安価で施工性が高い。不燃性が高く、吸音性にも優れる。
(参考メーカー)旭ファイバーグラス㈱、パラマウント硝子工業㈱、等

(参考画像)アクリアネクストα(旭ファイバーグラス㈱)

②ロックウール
:玄武岩などの鉱物を高温で溶かして繊維状にしたもの。
グラスウールより耐熱性が高い。撥水性のある製品も多い。
グラスウールに比べると割高。
(参考メーカー)ニチアス㈱、㈱エーアンドエーマテリアル、等

(参考画像)MGボード(ニチアス㈱)


Ⅱ.発砲プラスチック系断熱材
①ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)
:ポリスチレンのビーズを発泡させて作る。
「発泡スチロール」として知られる。
軽量で加工が容易。比較的安価。
(参考メーカー)アキレス㈱、㈱カネカ、等

(参考画像)アキレススチレンブロック(アキレス㈱)

②押出法ポリスチレンフォーム(XPS)
:ポリスチレンを溶かし、発泡剤を加えて押出成形して作る。
EPSより硬く、吸水性が非常に低い。
基礎断熱や屋上断熱などにも使われる。
(参考メーカー)㈱カネカ、デュポン・スタイロ㈱、㈱JSP、等

(参考画像)カネライトフォーム(㈱カネカ)

③硬質ウレタンフォーム
:ポリイソシアネートとポリオールを反応させて作る。
発泡プラスチック系の中で特に断熱性能が高い。
板状の製品と、現場で吹き付けるタイプがある。
(参考メーカー)倉敷紡績㈱、アキレス㈱、㈱日本アクア(吹付)、等

(参考画像)クランボードP(倉敷紡績㈱)

④フェノールフォーム
:フェノール樹脂を発泡させて作る。
硬質ウレタンフォームと同等以上の高い断熱性能を持つ。
熱に強く、燃えにくいのが最大の特徴。
(参考メーカー)旭化成建材㈱、フクビ化学工業㈱、等

(参考画像)ネオマフォーム(旭化成建材㈱)

Ⅲ.その他の断熱材
①セルロースファイバー
:新聞古紙などの木質繊維をリサイクルして作る。
専門業者による吹込み工法で施工する。
高い断熱性に加え、吸放湿性や防音性、防虫効果(ホウ酸処理による)を持つ。
(参考メーカー)㈱兼久、大王製紙㈱、等

(参考画像)コンファイブ(㈱兼久)


②高性能断熱材(真空断熱材、等)
:グラスウールやシリカなどの芯材を真空状態にして断熱性能を極限まで高めたもの。
非常に薄くても高い断熱性能を発揮するが、高価。
冷蔵庫や特殊な建築部位などに使用される。
(参考メーカー)日本グラスファイバー工業㈱、小原化工㈱、等

(参考画像)真空断熱材(日本グラスファイバー工業㈱)

まとめてみたが、改めて種類の多さと性質の違いに驚いた。また、その他の内容として、施工性が良いかも検討内容となる。そして、最も大事なのは隙間なく断熱材を実際に施工できているかどうかである。その隙間から湿気を含んだ空気が入っていけばそこが結露し、どんなに断熱性能が高い断熱材を使っても意味がないことになる。

今後は断熱材の仕様と性能を検討しつつ、実際の断熱等級の計算も書類化していく必要があるので先が思いやられるが、一つずつ理解して快適な断熱環境を設定できるように、より理解を深めていきたいと思う。

カテゴリー: 建築 | コメントする

建設費の高騰

建設費が何しろ高い。最近はニュースで米の値上がりをひたすら報じていたが、建設費もそれに負けていない。感覚的には5年前の建設費の1.5倍の金額になっている。そのため、忙しく図面作成しているが、金額がネックで計画自体が前に進んでいない案件が出始めている。

どんな案件でも当初の予算通りで、かつ、要望を満たした建築計画、というのは難しい。どうしても建築主が要望する建築計画は予算を超えがちである。だが、そこで設計者の知恵を使って、同等のものでもコストを抑えた建材を選定する、使い勝手の考え方を変えることで施工面積を減らす、等の方法でコストを調整することは可能である。だが、昨今の物価高による建設費高騰はその設計者の努力のレベルを超える値上がり幅である。

また、物価は上がっているが、個人や会社に限らず、建築主の予算の余裕が減っていっている感覚もある。日本の年収の中央値は約400万。だが、これだけ建設費が上がり、かつ、地価も上がっているので、一般の人は自宅の建設も今後難しくなってくる。現に日本の大手のハウスメーカー等も軒並み、着工棟数は減り、売り上げも減っていっている。売上が上がっているのは海外に進出している会社ぐらいである。

人口が減り、物価が上がり、年収も据え置きとなると、建物を建てるという行為を希望する人の潜在数はあるとしても、実際に建設する人は確実に減っていく。

ただ、建築士の資格保有者数も現在約100万人程度いるが、これも減っていっている。しかも、令和4年時点で半数が60歳以上である。40歳台以下となると、全体の3割しかいない。

人口減、物価高、建設費高騰、建築士の減少、それら要素を考えても将来予測はぼんやりとは立てられるが、確実な予測は難しい。先々を考えれば考えるほど不安も増す。だが、あまり先々を考えて手を止めることもよくないことも分かっている。約10年、自分で設計事務所をやってきて思うのは、私一人でできることはかなり限られているものの、時代の流れやその時に周りにいる人に合わせて私自身の考え方や行動を微調整していくことが大切である。また、私の目標、建築と法律のプロフェッショナルになる、というものをぶれずに目指し続けることが結果的に時代の流れやその時に周りにいる人のためにもプラスに働くことになる予感がある。結局、私がすべきことは大きく変わることもないし変えようがないのだが、自身を微調整しながら前を向いて進んでいくしかない。

カテゴリー: 建築 | コメントする