破産財団、自由財産、取戻権、否認権、継続的給付契約、共益債権(2023司法試験-倒産法)

〔第1問〕〔設問1〕(1)各財産の破産手続において破産財団に属するかの検討
①P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨
②現金90万円
③Cの遺産である600万円の預金債権
④Cの死亡による1000万円の保険金請求権

・破産財団(34Ⅰ)
:破産手続開始時に破産者が有する一切の財産(国内外問わず)

・自由財産
:破産財団に帰属しない破産者の財産
(1)破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産)
(2)差押禁止財産
※99万円(66万円(民事執行法131③、民事執行法施行令1条)に2分の3を乗じた額)(34Ⅲ①)
(3)破産管財人が財団から放棄した財産

・参考判例 破産財団の範囲(2)-保険金請求権(H28.4.28 24)
:死亡保険金請求権は破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である

①P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨

破産手続開始時に破産者が国外に有する財産のため、破産財団に属する

②現金90万円

差押禁止財産99万円以下の金額のため、破産財団に属しない

③Cの遺産である600万円の預金債権

破産手続開始後に相続により取得した財産であり新得財産のため、破産財団に属しない

④Cの死亡による1000万円の保険金請求権

破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づく請求権であるため、破産財団に属する

〔第1問〕〔設問1〕(2)貯蓄型医療保険に基づく請求権について破産財団に帰属することを肯定しつつ、なお申立代理人の立場に立って本件保険契約を継続する方法がありうるか

・自由財産の拡張(34Ⅳ)
:破産手続開始決定から原則として1カ月以内に裁判所は破産者の申立てにより、または職権で破産者の生活状況、破産手続開始時の自由財産の種類・額、破産者の収入の見込み等の事情を考慮して自由財産の範囲を拡張できる

破産裁判所に対して自由財産の拡張の申立てをすることが考えられる。しかし、医療保険による配当原資の増大は解約返戻金を含めても見込めず、すでに99万円を大きく超える自由財産を既に得ている
↓よって、
単なる自由財産の拡張は破産債権者と破産者の衡平を欠くことになり、認められない可能性が高い
↓そこで、
上記請求権を破産財団から放棄(78Ⅱ⑥)するよう求めることが考えられる
↓もっとも、
単なる放棄では自由財産の拡張と同様に破産債権者と破産者の衡平を欠くことになるため、解約返戻金40万円を支払うことと引き換えに破産財団から上記請求権を放棄するように交渉すべきである。同請求権が破産財団に帰属する前提に立ったとしても、解約返戻金しか配当原資として期待できないため、自由財産からの40万円の組入れと引き換えに同請求権を破産財団から放棄するという運用は破産債権者と破産者との衡平を欠くものではないことになる

〔第1問〕〔設問2〕(1)甲不動産の登記請求権について

・取戻権(62)
:破産手続開始時に外見上は債務者の財産に帰属するように見えても他人の所有物が紛れ込んでいる場合がある。その場合、破産管財人に対し、その返還を求めることができる

・参考判例 財産分与金と取戻権の成否(最判H2.9.27 51)
:財産分与金の支払いを目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方は右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である

・Dの取戻権が認められるならば破産手続によらずに登記請求権を行使することが可能(62)
↓反論として、
・財産分与請求権は破産債権に過ぎず、破産手続によらなければ行使できない(100Ⅰ)
↓しかし、
この反論については財産分与が金銭の分与の形で行われた場合には妥当するとしても、本件のように不動産が財産分与の対象となる場合、Dの請求権は共有状態にあった不動産甲に対する持分権という物権的請求権に基づく分割請求として構成できるため、上記反論は本件には妥当しないとの再反論が可能である
↓次いでの反論として、
本件はDへの甲不動産所有権移転登記未了のままAの破産手続が開始されている所、破産管財人は差押債権者類似の存在であり、したがって、登記なくして対抗することができない「第三者」である(民法177条)という主張が考えられる。この反論に対しては、破産管財人は民法254条が規定する「特定承継人」に該当し、上記「第三者」には該当しないとの再反論が可能である
↓よって、
本問でのDの登記請求権の行使は認められる

〔第1問〕〔設問2〕(2)不相当とはいえない範囲での財産分与につき、否認権の行使が認められるか

・否認権
:破産債権者にできるだけ多額かつ平等な配当を保障するため、破産手続開始前の、債務者の財産隠匿・処分に関する行為(詐害行為)や一部債権者に対する優先的な弁済行為(偏頗(へんぱ)行為)の効力を破産手続上否定し、隠匿・処分された財産を回復し、債権者の平等弁済を確保する制度
↓(一般的要件)
・否認対象行為は破産債権者全体に対して有害なものでなければならない(有害性)
・破産者の行為性(⇔相殺は否認されない)
・行為の不当性

・Aが支払不能となった後にDはその事実を認識しつつ財産分与請求権という債権の満足を受けているため、偏頗行為否認については162条1項1号イの要件(支払不能後の債務消滅行為及び債務者支払不能についての債権者の悪意)を満たしている。また、Aに支払の停止があり、かつDがAの支払停止まで認識していれば160条1項2号に基づき、詐害行為否認の要件も満たされることになる

Dの反論として、財産分与は清算的要素を持つため、否認権は成立しないと主張している。否認権成立の一般的要件として不当性が要求されるところ、当該財産分与は民法768条3項の規定の趣旨に照らして不相当に過大であり、財産分与に仮託して財産処分であると認めるに足りる特段の事情がない限り、不当性を欠き、否認権の行使は認められないと主張
↓しかし、
上記反論は民法上の詐害行為取消し及び詐害行為否認を射程とするものであり偏頗行為否認は射程外である。また、財産分与のうち、金銭給付を目的とする部分については一般の破産債権として扱われるべきであり、財産分与請求権も特別な扱いはされない。そして、本件は扶養的要素に当てはまるものの清算的要素の方が強く、上記反論は本件では当てはまらないという再反論がありうる。
↓よって、
Dの反論は認められず、Xの主張する否認権が認められる

〔第2問〕〔設問1〕民事再生手続における継続的給付契約(電気の供給契約)の扱いについて
①令和4年9月分(1日~30日分)(支払期限:令和4年11月10日)
②令和4年10月分(1日~30日分)(支払期限:令和4年12月10日)
③令和4年11月分(1日~30日分)(支払期限:令和5年1月10日)

・再生債権(84Ⅰ)
:再生債権者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権

再生手続の開始により再生債権の弁済は原則として禁止(85Ⅰ)

・継続的給付契約を目的とする双務契約に関し、相手方は再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては再生手続開始後はその義務の履行を拒むことができない(50Ⅰ)。ただし、共益債権とする(50Ⅱ)

・①に関して再生計画の定めるところに寄らなければ相手方に弁済することはできないが、相手方も弁済がないことを理由に義務履行を拒むこともできない

・共益債権
:特に手続開始後に発生した債権を中心に再生債権者共同の利益となるような債権は共益債権とされ、随時に優先して弁済される(破産手続における財団債権に相当するもの)

再生手続に寄らずに随時弁済を受けることができ(121Ⅰ)、再生債権に優先して弁済される(121Ⅱ)

〔第2問〕〔設問2〕B社のA社に対する敷金返還請求権の取扱い(破産法と民事再生法の異同)

(破産法)
・自働債権が停止条件付の債権である場合には、停止条件が将来成就した場合の相殺の利益を保護するために、破産債権者が履行期の到来により弁済した自己の債務額について、破産管財人に対し寄託することを求めることができるものとしている(破70前段)
敷金返還請求権を有する賃借人が破産手続開始後に賃料を弁済する場合も同様に寄託請求が認められる(破70後段)
↑(原則)
・破産債権者による債務負担に基づく相殺については、破産手続開始後の債務負担に基づく相殺は全面的に禁止(破71Ⅰ①)

(民事再生法)
事業継続のための資金確保という観点から、破産法のような寄託請求は認めていない。その一方で、賃借人保護のために、再生手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務について賃借人が弁済期に弁済をしたときは、賃料の6カ月分を限度として敷金返還請求権が共益債権となることを認めている(92Ⅲ)。限度額については、相殺により消滅する賃料債務の額は控除される(92Ⅲ括弧書き)

参考文献
:倒産処理法入門〔第6版〕・山本和彦(有斐閣)
 倒産判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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