仕事とは関係ないプラン

最近、直接仕事とは関係ない住宅のプランを作成している。誰かに頼まれた訳でもなく、このプランをしっかりと仕上げたからといって仕事に繋がるという訳でもないプランである。だが、未来に繋がるプランでもある。土地がいびつなので、通常のプランでは納まらない。そのため、20ミリ、30ミリぐらいの寸法感で調整しながら、構造も同時並行で検討しているうちに数時間経ってしまうということが続いている。

また、そのプランは自邸でもない。話は変わるが、私は現在、賃貸住宅に住んでいる。私の仕事は主に自邸を建てたい建築主の依頼で設計業務を行うが、自邸を建てようとする人の経済力、心意気はすごいなと思う。いろんな期待や不安が入り混じる中、完成するまでその実物を見ることなく、時間と費用をかけて、そのぼんやりしたものに飛び込む勇気がすごいと思う。私もせっかくこんな仕事をしているからいつかは自邸を建てたいとは考えているが、まだ当分、先になりそうだ。

しばらく止まっていた設計案件が最近になって動き始めて、着工に向けての設計図作成や申請書類関係もかなりの量がある。また、法律の勉強も変わらずほぼ毎日進めており、ここ数年、予備試験の受験を見送っていたが、来年からはまた復帰しようと考えている。他にもプログラミングも細々と勉強を続け、ぼんやりとは分かってきた気もする。その延長で自分で自分のホームページを作り込んで、オリジナルのロゴを掲げたいと考え、ロゴデザインの本も以前に購入したが、まだ本格的に検討はできていない。

本来なら仕事とは関係ないプランを作成している場合ではないが、検討を始めると時間が経つのを忘れるぐらいにのめり込んでしまう。すべきこと、したいこと、今の内にしておいた方が良いことをやっている内に時間があっという間に過ぎてしまう。ただ、見方を変えれば、こんなに時間を惜しむような日々を過ごせていることは幸せなことかもしれないとも思える。自分の分身を作ることはできないから体一つでできることも限られてはいるが、日々、その時もしくは近い将来にすべきことを毎日一つ一つやっていく内に想像もしない場所へ辿り着けそうな気がする。目の前の場所と遥か遠い場所とを交互に見ながら進んでいきたいと思う。

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原告適格、訴えの利益、行政裁量(2022司法試験-行政法)

〔設問1〕(1)E及びFに原告適格が認められるか

・原告適格(行訴法9Ⅰ)
:「法律上の利益を有する者」であれば原告適格が認められる。
「法律上の利益を有する者」について、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、とした上で、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的利益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者は当該処分の取消訴訟における原告適格を有する

・参考判例 林地開発許可と第三者の原告適格(最判H13.3.13 Ⅱ-157)

・森林法(以下、省略)10条の2第2項第1号は森林の災害防止機能に照らして「土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」、同項1号の2は森林の水害防止機能に照らして「水害を発生させるおそれがあること」に着目して、不許可要件を定めている。これらの規定は、土砂災害又は水害により直接的被害を受ける人の生命、身体の安全等を保護する趣旨・目的である。同項各号の趣旨・目的及び利益の内容・性質等に照らすと(行訴法9条2項)、これらの規定は土砂災害・水害防止機能という森林の有する公益的機能確保にとどまらず、土砂災害又は水害による直接的被害を受ける住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。
↓これに対して、
同項2号は森林の水源かん養機能に照らして「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」に着目した不許可要件を定めている。水源確保は一般的公益に吸収解消される一般的公益であって、特定人の個別的利益保護の趣旨を含まない。

・Eは所有地及び所有林を有しているが、C市外に居住し、D山を水源とする水道水を使用していないことから、生命身体利益や水源利用の利益を有しない。また、10条の2第2項第1号は土地所有権等に着目した不許可要件を置いておらず、1条の目的規定においても財産権保護の趣旨を読み取ることはできない。
↓よって、
Eの所有地及び所有林が土砂災害・水害による直接的被害を受けたとしても、Eに原告適格は認められない

・Fは本件沢の水を飲料水や生活用水として使用しているが、水源利用の利益は原告適格を基礎づけない。
↓しかし、
本件開発区域の外縁から200メートル下流部の本件沢沿いの居住者であり、土砂災害及び水害により直接的に生命身体利益を害されるおそれがある
↓よって、
Fは「法律上の利益を有する者」に該当し、原告適格が認められる

〔設問1〕(2)仮にEが本件開発行為に同意し、Fのみが同許可の取消訴訟を提起した場合、同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了した後においてもFに訴えの利益は認められるか

・訴えの利益
:取消訴訟を利用するためには原告の請求が認容された場合、原告の具体的な権利利益が客観的にみて回復可能でなければならない

・参考判例 建築確認と訴えの利益(最判S59.10.26 Ⅱ-170)
↓(判断枠組み)
①建築確認はそれを受けなければ工事をすることができないという法的効果を有するにとどまり、②建築確認の存在は検査済証の交付拒否又は違反是正命令発出の法的障害にはならず、③検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない

・本件許可はそれを受けなければ工事をすることができないという法的効果を有するにとどまる(①)。また、客観的にみて10条1項所定の要件に適合しない開発行為について誤って開発許可処分がされた場合には、「前条第1項の規定に違反した者」(10条の3)に該当するものとして復旧命令をすることが可能であり、本件許可の存在は復旧命令の法的障害にならない(②)。さらに、「命ずることができる」(10条の3)という文言からすると復旧命令を出すか否かについては効果裁量があるため、本件許可が取り消されたとしても、取消判決の拘束力(行訴法33条1項)により復旧命令を出すことは法的に義務付けられない(③)
↓したがって、
本件開発行為に関して工事完了した場合、「回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項括弧書き)は残存しておらず、Fに訴えの利益は認められない

〔設問2〕B県知事がAに対し本件許可申請に係る許可をし、Fが同許可の取消訴訟を提起した場合、Fによる違法事由の主張を挙げ、それぞれに対するB県の反論の検討

・行政裁量
:法律が行政機関に独自の判断余地を与え、一定の活動の自由を認めている場合のこと
↓ただし、
裁判所は裁量処分について裁量権の逸脱・濫用があった場合にのみ取り消すことを定める(行訴法30)
↑(趣旨)
裁量行為について裁判所の審査範囲が限定されるのは裁量が個々の問題ごとに実際に執行活動にあたる行政部門の方がより的確な対応ができるという立法者の判断に基づいて認められるものであり、したがって、裁判所も基本的には行政庁の判断を尊重するのが好ましいという考え方に依拠している
↓(行政裁量が問題となるステージ)
①事実認定
②法律要件の解釈と認定事実のあてはめ(要件裁量)
③手続きの選択
④行為の選択(効果裁量)(どのような処分をし、その処分をするかしないか)
⑤時の選択
↓(行政裁量の審査基準)
基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合(他事考慮)、又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと(合理性欠如)、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当を欠くものと認められる場合(考慮不尽)、に裁量権の逸脱・濫用となる
(参考判例 都市計画と裁量審査-小田急高架訴訟本案判決(最判H18.11.2 Ⅰ-72))

・1.本件許可基準1-1-①について

Fは「相当数の同意」(10条の2第1項、森林法施行規則4条2項)は審査基準(行手法2条8号ロ)として設定・公表されている本件許可基準1-1-①において権利者数の3分の2以上とされており、Eの同意書添付がなければ2分の1が不同意ということになるから、Eの同意書添付を欠けば本件許可は違法であると主張しうる
↓だが、
水源の確保対策等の必要性や措置の妥当性の評価などに関する専門技術的判断の必要性や公益考慮の必要性があるため、開発許可はB県知事に広範な裁量が認められる裁量処分であり、抽象的・規範的要件である「相当数の同意」の判断には広範な要件裁量があるため、要件裁量の逸脱・濫用ではない限り、違法とはならない
↓それを踏まえ、
本件許可基準1-1-①の趣旨は開発行為の完了が確実であるといえるかを判断するために申請者に過度な負担を課さない範囲での権利者の同意を求める趣旨であるから、開発行為の完了が確実であるといえるかを判断できるのであれば、機械的に権利者数により判断するのではなく、所有林面積割合という個別事情を考慮することは要件裁量の範囲内であると言える
↓したがって、
「相当数の同意」の有無を判断するに際して所有林面積割合を考慮し、98%の所有林を有するAの同意があれば必ずしも2%の所有林しか有しないEの同意を不要としても、要件裁量の逸脱・濫用とはならない、との反論

・2.本件許可基準1-1-②について

Fは本件認定(本件条例7条3項)により「規制対象事業場」(本件条例2条5号)であるAの施設の設置が禁止され(本件条例8条)、本件許可基準1-1-②の「法令等による土地の使用に関する制限等に抵触しないこと」を充足せず、ひいては10条の2第2項2号の不許可事由に該当する、と主張
↓これに対して、
B県は事前協議条項(本件条例7条1項・3項)に照らしてC市長にはAの権利・地位を不当に侵害しないように事前に十分な協議を尽くすべき義務があり、丁寧な事前協議を行ってAの協力を得られれば水源枯渇の問題は生じず、Aの施設を「水道に係る水源の枯渇をもたら」すような「規制対象事業場」(本件2条5号)と認定する本件認定をすることもなかったのだから、本件認定は事前配慮義務に違反し違法であると反論しうる。
また、C市は本件申請後に事後的に本件条例を制定し、本件計画の阻止を意図して本件認定を行っている。そのため、B県は本件認定を権利濫用(民法1条3項)であり違法であると反論もできる

・3.本件許可基準4-1について

Fは本件貯水池の容量が少なく生活用水に不足が生じるため、「必要な水量を確保」するために貯水池などの措置が適切に講じられておらず、本件許可基準4-1に適合せず、ひいては10条の2第2項2号は「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」があると主張しうる
↓これに対して、
B県は10条の2第2項2号は「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」という抽象的・規範的要件の認定にはB県知事の広範な要件裁量があり、本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池の設置をもって「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」がないとの判断も可能である。
↓よって、
要件裁量の逸脱・濫用ではない限り、違法とはならないと反論する。

参考文献
:行政法〔第6版〕・櫻井敬子 橋本博之(弘文堂)
 行政判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第8版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

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学問の自由(2022司法試験-憲法)

・学問の自由(23)
:学問研究の自由(内面的精神活動の自由である思想の自由の一部)、研究発表の自由(外面的精神活動の自由である表現の自由の一部)、教授の自由

・学問の自由の保障の意味
1)学問研究はことの性質上、外部からの権力・権威によって、干渉されるべき問題ではない
2)学問の自由の実質的裏付けとして、教育機関において、学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障すること

・大学の自治
:大学における研究教育の自由を十分に保障するために大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするもの

1)人事の自治
2)施設・学生の管理の自治

・参考判例

学問の自由と大学の自治-東大アポロ事件(S38.5.22 Ⅰ-86)
国立大学の内部問題と司法審査-富山大学事件(S52.3.15 Ⅱ-182)

決定①:研究助成金の不交付決定、決定②:「地域経済論」の不合格者の成績評価を取り消し、他の教員による再試験、成績評価を実施するとの決定、に対しての憲法上の主張

・決定①について

憲法23条(学問の自由)は大学における各研究者の学問研究の内容やその遂行としての研究活動の自由を保障する。公権力(政治的圧力等)により、研究内容や研究活動の遂行を不当に制約されない
↓もっとも、
同規定は研究内容や研究活動の遂行のための助成金の支給を受けるための請求権までを保障するものではない
↓よって、
決定①はYの学問の自由を制約していない(形式的判断)
↓他方、
助成金の不交付により、十分な研究活動の遂行ができなくなり、実質的な制約になるとも考えられる
↓そもそも、
学問の自由は一般市民に広く保障されることに加え、「大学における学問の自由」の保障の側面を有し、そこには大学の自治や教授の自由も含まれる(東大アポロ事件参照)。また、大学における助成金の配分の在り方などを含め、大学内部での自律的決定権限が広く認められる
↓また、
各研究者の真の意味での学術的研究を行うことが前提であり、特に助成金が交付されて支出される事柄が政治的活動等の学術的研究外の目的に使われることは不適切である。学術的活動と政治的活動の切り分けが難しい場合でも、それら研究内容を総合的に判断し、助成金交付の有無を大学側が自律的決定権限で判断することは許されると解される。
↓以上より、
助成金の対象となる研究課題及びその利用形態が、真の意味で学術的研究のためとなっているのかどうかといった点について、大学内部における当該決定が適切な手続きを経て決定されているかどうかの精査が求められる

X大学は外部からの意見を聞いたものの、①の決定は大学自らが検討を始めている。また、Yの研究の政策批判を直接的な問題とするのではなく、特定の政治的意見表明や団体Cのための活動に助成金を使用していたことを問題視している。また、それを判断するにつき、適切な決定手続きが採られている
↓以上から、
決定①は憲法23条に照らして妥当な決定と解される

・決定②について

憲法23条は大学における各研究者の「教授の自由」を保障する。大学における教授の自由と単位認定とは密接な関係にあり、単位認定行為は基本的に大学の自主的、自律的な判断に委ねられている(富山大学事件参照)
↓そこで、
単位認定に関して、大学による自律的判断が求められる一方で、各教授の権能あるいは利益を不当に制約することがあってはならない。学内における学術的見地からの内容面、手続き面での適正な審査を経て判断されるべきである

内容面で言うと、Yによる成績評価では団体Cに入った者には全て「S」が付いていることからすると、外形的に均衡が採られているとは言えず、学術的観点からなされた判断であると考えることが難しい部分が散見される。また、手続き面で言うと、学生からの異議申し立てがあった後、Yの異議申し立ての機会を経た上で、教授会の議を経て行われており、学内における適正な手続きが採られている。また、評価の著しく低い学生に関してのみ再評価の対象とし、教員の単位認定に係る利益については部分的な制約になるように調整が図られている
↓以上から、
決定②は憲法23条に照らして妥当な決定と解される

参考文献
:憲法〔第八版〕・芦部信喜(岩波書店)
 憲法判例百選Ⅰ〔第7版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

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人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である

人間、暇だとどうしても悪いことを考えがち。まだ今年は終わっていないが、今年は仕事は忙しいものの、建設費高騰の影響もあり、予算の都合で仕事が止まっているような状況の案件が多かった。

コロナ禍の時は状況が状況だけに建築主から仕事を進めるのを待ってくれと言われ、待ち続けた挙句、その時に動いていた案件が全て吹き飛んだ。案件が止まった時もパニックになったが、全てが仕事として吹き飛んだ時もさらにパニックになった。設計事務所の仕事は毎月給料が支払われる訳ではない。建築主の望む建築物が完成するように日々、手を動かし頭を使って、その完成が現実化して初めてその対価としての設計料を支払ってもらえる。また、状況が変わったからすぐに建ててくれと言われても、工事ができるレベルの設計図書の準備にはとても時間がかかる。だから、建築主から手を止めてくれと言われても、先々を考えれば完全に手を止める訳にもいかないが、案件自体がなくなり設計料が支払わなければその手を動かし頭を使った、時間と手間は無意味と化す。

だが、日々、いろいろな出来事があるが、少し深呼吸してその出来事を眺めれば、その瞬間は悲劇であったり辛い出来事かもしれないが、時間を置いたり距離を取って眺めてみれば、悪いことばかりではないし、良い事の場合ですらある。

今年は下手すれば思考停止で悪い方向に思考が行きかねない状況ではあった。コロナ禍の時の記憶が甦った。今年はコロナの代わりに物価高騰かもしれないとも思えた。だが、良くも悪くも今までの経験から細心の注意を払いつつも、その悪い思考に捕われず、その時その時にすべきことをしっかり行い、近視眼的に物事を見ないように注意していけばそんな悪いことにならないことは分かっていたので、黙々と作業を続けた。結果、工事中の案件も設計中の案件もより良い方向に進んでいけそうだ。逆に、この停滞した時間があったからこそ設計を深める時間を作れたように思う。

複数の止まっていた案件が時を同じく、動き出そうとしている。年中無休で働いているが、今年の年末年始もバリバリ手を動かし頭を使うことになりそうだ。ただ、思考停止せずにすべきことをしておいたおかげで多少なりとも時間に追われ続けることなく、楽しく設計作業を進められそうだ。

設計事務所をやっていくには、さらには他の商売や仕事でも同じことのように思うが、悲劇や喜劇のような出来事が誰の元にも起こってくるが、物事は必ず両面を見る必要がある。そして、勝手にどちらかと決めつけることも良くない。結局、その両面を見極め、すべきことをしっかりやっていくことが唯一の方法なんだと思う。

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破産財団、自由財産、取戻権、否認権、継続的給付契約、共益債権(2023司法試験-倒産法)

〔第1問〕〔設問1〕(1)各財産の破産手続において破産財団に属するかの検討
①P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨
②現金90万円
③Cの遺産である600万円の預金債権
④Cの死亡による1000万円の保険金請求権

・破産財団(34Ⅰ)
:破産手続開始時に破産者が有する一切の財産(国内外問わず)

・自由財産
:破産財団に帰属しない破産者の財産
(1)破産手続開始後に破産者が取得した財産(新得財産)
(2)差押禁止財産
※99万円(66万円(民事執行法131③、民事執行法施行令1条)に2分の3を乗じた額)(34Ⅲ①)
(3)破産管財人が財団から放棄した財産

・参考判例 破産財団の範囲(2)-保険金請求権(H28.4.28 24)
:死亡保険金請求権は破産法34条2項にいう「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の請求権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取人の破産財団に属すると解するのが相当である

①P国所在の販売店に預かってもらっている500万円相当の雑貨

破産手続開始時に破産者が国外に有する財産のため、破産財団に属する

②現金90万円

差押禁止財産99万円以下の金額のため、破産財団に属しない

③Cの遺産である600万円の預金債権

破産手続開始後に相続により取得した財産であり新得財産のため、破産財団に属しない

④Cの死亡による1000万円の保険金請求権

破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づく請求権であるため、破産財団に属する

〔第1問〕〔設問1〕(2)貯蓄型医療保険に基づく請求権について破産財団に帰属することを肯定しつつ、なお申立代理人の立場に立って本件保険契約を継続する方法がありうるか

・自由財産の拡張(34Ⅳ)
:破産手続開始決定から原則として1カ月以内に裁判所は破産者の申立てにより、または職権で破産者の生活状況、破産手続開始時の自由財産の種類・額、破産者の収入の見込み等の事情を考慮して自由財産の範囲を拡張できる

破産裁判所に対して自由財産の拡張の申立てをすることが考えられる。しかし、医療保険による配当原資の増大は解約返戻金を含めても見込めず、すでに99万円を大きく超える自由財産を既に得ている
↓よって、
単なる自由財産の拡張は破産債権者と破産者の衡平を欠くことになり、認められない可能性が高い
↓そこで、
上記請求権を破産財団から放棄(78Ⅱ⑥)するよう求めることが考えられる
↓もっとも、
単なる放棄では自由財産の拡張と同様に破産債権者と破産者の衡平を欠くことになるため、解約返戻金40万円を支払うことと引き換えに破産財団から上記請求権を放棄するように交渉すべきである。同請求権が破産財団に帰属する前提に立ったとしても、解約返戻金しか配当原資として期待できないため、自由財産からの40万円の組入れと引き換えに同請求権を破産財団から放棄するという運用は破産債権者と破産者との衡平を欠くものではないことになる

〔第1問〕〔設問2〕(1)甲不動産の登記請求権について

・取戻権(62)
:破産手続開始時に外見上は債務者の財産に帰属するように見えても他人の所有物が紛れ込んでいる場合がある。その場合、破産管財人に対し、その返還を求めることができる

・参考判例 財産分与金と取戻権の成否(最判H2.9.27 51)
:財産分与金の支払いを目的とする債権は破産債権であって、分与の相手方は右債権の履行を取戻権の行使として破産管財人に請求することはできないと解するのが相当である

・Dの取戻権が認められるならば破産手続によらずに登記請求権を行使することが可能(62)
↓反論として、
・財産分与請求権は破産債権に過ぎず、破産手続によらなければ行使できない(100Ⅰ)
↓しかし、
この反論については財産分与が金銭の分与の形で行われた場合には妥当するとしても、本件のように不動産が財産分与の対象となる場合、Dの請求権は共有状態にあった不動産甲に対する持分権という物権的請求権に基づく分割請求として構成できるため、上記反論は本件には妥当しないとの再反論が可能である
↓次いでの反論として、
本件はDへの甲不動産所有権移転登記未了のままAの破産手続が開始されている所、破産管財人は差押債権者類似の存在であり、したがって、登記なくして対抗することができない「第三者」である(民法177条)という主張が考えられる。この反論に対しては、破産管財人は民法254条が規定する「特定承継人」に該当し、上記「第三者」には該当しないとの再反論が可能である
↓よって、
本問でのDの登記請求権の行使は認められる

〔第1問〕〔設問2〕(2)不相当とはいえない範囲での財産分与につき、否認権の行使が認められるか

・否認権
:破産債権者にできるだけ多額かつ平等な配当を保障するため、破産手続開始前の、債務者の財産隠匿・処分に関する行為(詐害行為)や一部債権者に対する優先的な弁済行為(偏頗(へんぱ)行為)の効力を破産手続上否定し、隠匿・処分された財産を回復し、債権者の平等弁済を確保する制度
↓(一般的要件)
・否認対象行為は破産債権者全体に対して有害なものでなければならない(有害性)
・破産者の行為性(⇔相殺は否認されない)
・行為の不当性

・Aが支払不能となった後にDはその事実を認識しつつ財産分与請求権という債権の満足を受けているため、偏頗行為否認については162条1項1号イの要件(支払不能後の債務消滅行為及び債務者支払不能についての債権者の悪意)を満たしている。また、Aに支払の停止があり、かつDがAの支払停止まで認識していれば160条1項2号に基づき、詐害行為否認の要件も満たされることになる

Dの反論として、財産分与は清算的要素を持つため、否認権は成立しないと主張している。否認権成立の一般的要件として不当性が要求されるところ、当該財産分与は民法768条3項の規定の趣旨に照らして不相当に過大であり、財産分与に仮託して財産処分であると認めるに足りる特段の事情がない限り、不当性を欠き、否認権の行使は認められないと主張
↓しかし、
上記反論は民法上の詐害行為取消し及び詐害行為否認を射程とするものであり偏頗行為否認は射程外である。また、財産分与のうち、金銭給付を目的とする部分については一般の破産債権として扱われるべきであり、財産分与請求権も特別な扱いはされない。そして、本件は扶養的要素に当てはまるものの清算的要素の方が強く、上記反論は本件では当てはまらないという再反論がありうる。
↓よって、
Dの反論は認められず、Xの主張する否認権が認められる

〔第2問〕〔設問1〕民事再生手続における継続的給付契約(電気の供給契約)の扱いについて
①令和4年9月分(1日~30日分)(支払期限:令和4年11月10日)
②令和4年10月分(1日~30日分)(支払期限:令和4年12月10日)
③令和4年11月分(1日~30日分)(支払期限:令和5年1月10日)

・再生債権(84Ⅰ)
:再生債権者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権

再生手続の開始により再生債権の弁済は原則として禁止(85Ⅰ)

・継続的給付契約を目的とする双務契約に関し、相手方は再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては再生手続開始後はその義務の履行を拒むことができない(50Ⅰ)。ただし、共益債権とする(50Ⅱ)

・①に関して再生計画の定めるところに寄らなければ相手方に弁済することはできないが、相手方も弁済がないことを理由に義務履行を拒むこともできない

・共益債権
:特に手続開始後に発生した債権を中心に再生債権者共同の利益となるような債権は共益債権とされ、随時に優先して弁済される(破産手続における財団債権に相当するもの)

再生手続に寄らずに随時弁済を受けることができ(121Ⅰ)、再生債権に優先して弁済される(121Ⅱ)

〔第2問〕〔設問2〕B社のA社に対する敷金返還請求権の取扱い(破産法と民事再生法の異同)

(破産法)
・自働債権が停止条件付の債権である場合には、停止条件が将来成就した場合の相殺の利益を保護するために、破産債権者が履行期の到来により弁済した自己の債務額について、破産管財人に対し寄託することを求めることができるものとしている(破70前段)
敷金返還請求権を有する賃借人が破産手続開始後に賃料を弁済する場合も同様に寄託請求が認められる(破70後段)
↑(原則)
・破産債権者による債務負担に基づく相殺については、破産手続開始後の債務負担に基づく相殺は全面的に禁止(破71Ⅰ①)

(民事再生法)
事業継続のための資金確保という観点から、破産法のような寄託請求は認めていない。その一方で、賃借人保護のために、再生手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務について賃借人が弁済期に弁済をしたときは、賃料の6カ月分を限度として敷金返還請求権が共益債権となることを認めている(92Ⅲ)。限度額については、相殺により消滅する賃料債務の額は控除される(92Ⅲ括弧書き)

参考文献
:倒産処理法入門〔第6版〕・山本和彦(有斐閣)
 倒産判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)

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