学問の自由(2022司法試験-憲法)

・学問の自由(23)
:学問研究の自由(内面的精神活動の自由である思想の自由の一部)、研究発表の自由(外面的精神活動の自由である表現の自由の一部)、教授の自由

・学問の自由の保障の意味
1)学問研究はことの性質上、外部からの権力・権威によって、干渉されるべき問題ではない
2)学問の自由の実質的裏付けとして、教育機関において、学問に従事する研究者に職務上の独立を認め、その身分を保障すること

・大学の自治
:大学における研究教育の自由を十分に保障するために大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ、大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとするもの

1)人事の自治
2)施設・学生の管理の自治

・参考判例

学問の自由と大学の自治-東大アポロ事件(S38.5.22 Ⅰ-86)
国立大学の内部問題と司法審査-富山大学事件(S52.3.15 Ⅱ-182)

決定①:研究助成金の不交付決定、決定②:「地域経済論」の不合格者の成績評価を取り消し、他の教員による再試験、成績評価を実施するとの決定、に対しての憲法上の主張

・決定①について

憲法23条(学問の自由)は大学における各研究者の学問研究の内容やその遂行としての研究活動の自由を保障する。公権力(政治的圧力等)により、研究内容や研究活動の遂行を不当に制約されない
↓もっとも、
同規定は研究内容や研究活動の遂行のための助成金の支給を受けるための請求権までを保障するものではない
↓よって、
決定①はYの学問の自由を制約していない(形式的判断)
↓他方、
助成金の不交付により、十分な研究活動の遂行ができなくなり、実質的な制約になるとも考えられる
↓そもそも、
学問の自由は一般市民に広く保障されることに加え、「大学における学問の自由」の保障の側面を有し、そこには大学の自治や教授の自由も含まれる(東大アポロ事件参照)。また、大学における助成金の配分の在り方などを含め、大学内部での自律的決定権限が広く認められる
↓また、
各研究者の真の意味での学術的研究を行うことが前提であり、特に助成金が交付されて支出される事柄が政治的活動等の学術的研究外の目的に使われることは不適切である。学術的活動と政治的活動の切り分けが難しい場合でも、それら研究内容を総合的に判断し、助成金交付の有無を大学側が自律的決定権限で判断することは許されると解される。
↓以上より、
助成金の対象となる研究課題及びその利用形態が、真の意味で学術的研究のためとなっているのかどうかといった点について、大学内部における当該決定が適切な手続きを経て決定されているかどうかの精査が求められる

X大学は外部からの意見を聞いたものの、①の決定は大学自らが検討を始めている。また、Yの研究の政策批判を直接的な問題とするのではなく、特定の政治的意見表明や団体Cのための活動に助成金を使用していたことを問題視している。また、それを判断するにつき、適切な決定手続きが採られている
↓以上から、
決定①は憲法23条に照らして妥当な決定と解される

・決定②について

憲法23条は大学における各研究者の「教授の自由」を保障する。大学における教授の自由と単位認定とは密接な関係にあり、単位認定行為は基本的に大学の自主的、自律的な判断に委ねられている(富山大学事件参照)
↓そこで、
単位認定に関して、大学による自律的判断が求められる一方で、各教授の権能あるいは利益を不当に制約することがあってはならない。学内における学術的見地からの内容面、手続き面での適正な審査を経て判断されるべきである

内容面で言うと、Yによる成績評価では団体Cに入った者には全て「S」が付いていることからすると、外形的に均衡が採られているとは言えず、学術的観点からなされた判断であると考えることが難しい部分が散見される。また、手続き面で言うと、学生からの異議申し立てがあった後、Yの異議申し立ての機会を経た上で、教授会の議を経て行われており、学内における適正な手続きが採られている。また、評価の著しく低い学生に関してのみ再評価の対象とし、教員の単位認定に係る利益については部分的な制約になるように調整が図られている
↓以上から、
決定②は憲法23条に照らして妥当な決定と解される

参考文献
:憲法〔第八版〕・芦部信喜(岩波書店)
 憲法判例百選Ⅰ〔第7版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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