ガラススクリーンの現場打合せ

現在工事中のこの建物。設計の仕事を20年やってきた私でも実際に設計したことのない内容のオンパレードだった。木造のロ準耐火建築物、RC造+木造の混構造、住宅でのエレベーター設置、半円形状の鉄骨階段、屋上庭園、等。そして、特に道路際に設置するガラスブリックで構成するガラススクリーンは本当に特殊な内容となった。

ガラスブリックの最終サンプル

最初に建築主の要望として、LDKに面した庭を設けたいという内容があった。だが、周囲は住宅街で住宅が所狭しと立ち並び、背の高いマンションもちらほら見受けられる地域である。庭を作ってもマンションの上層階からのぞき込まれたり、隣家の窓からの目線等もあり、せっかく設ける庭なのに、気軽に庭に出てゆったりするということは難しい環境だった。いろいろと検討した結果、庭の周囲を壁で囲う「コート(庭)」を作り、できるだけ周囲からの目線に閉ざした空間を目指すことになった。だが、周囲に閉じるということは光や風を遮断することになる。2か所のコートがあるが、その課題を解決する方法として、1つ目のコートは三方の壁の一つの面を周囲からの視線が抜けないが光は通すガラスで構成し、光は入ってくるコートとなるように計画した。2つ目のコートは三方の壁の一つの面を周囲からの視線が抜けないように格子で覆い、格子の隙間から風は入ってくるコートとなるように計画した。

格子で覆うのは格子を設置するだけで良いが、ガラスで壁を構成する方は最終結論に至るまでに時間と労力がかかった。何社かの日本でも大手のガラスメーカーとやり取りしたが、こちらの希望するガラススクリーンには対応できないとの回答。その後、こちらの希望するガラスを扱う会社が見つかったのでやり取りするが、担当者からの連絡は緩慢でやり取りにとても時間がかかった。しかも、やり取りした結果、材料は卸せるが施工上のやり取りには関われないとの回答。協力する気もなさそうなので、そのルートを諦めることになった。さらに同時並行で進めていた構造検討も依頼してから半年近く経った確認申請を提出する直前になって、ガラスに関しては専門外だからとの理由で協力を断られた。思い描く完成形は見えているのに、材料・工事・構造検討の全てで誰からも協力が得られない状態になり、夢でうなされるぐらいまでに追い詰められた。

誰からも協力を得られない絶望感に打ちひしがれていたが、建築主もガラススクリーンの完成を楽しみにしてくれているし、私自身もこれを何としてでも完成させたいという気持ちに変わりはなかったので、このガラススクリーンの参考にした案件の構造設計者やガラス会社に連絡を取った。どちらも急な問い合わせで驚いていたが、経緯や実現に向けてのアドバイスを丁寧に教えてもらった。だが、どちらも会社が東京で、かつ、現状の仕事で手一杯だったため、このプロジェクトに加勢してもらえる状況になく、状況自体は変わらないままだった。

だが、いろいろと動いて状況が好転はしていなかったが、もうここまで来たらどうにかするしかないと、このガラススクリーンの完成に協力してもらえる可能性がある会社に片っ端から連絡を入れていった。10社ぐらいには連絡を入れたと思う。その中でこちらの要望に対して、協力してもらえる会社が見つかった。ようやく好転しだしたと安堵したのも束の間、材工の見積が出てきたら、普通の家が1,2軒建つんじゃないだろうかという金額の見積だった。またもや絶望のどん底に突き落とされた気分になった。

ただここまで来たらもう笑うしかないような状況だったが、諦めずにさらに可能性のある会社5社程度に連絡を入れた。多くの会社が今までの経緯を聞いて、「うちも同じです。」「そもそも難しいんじゃないですか。」等、今まで散々聞かされてきた文面を繰り返すのみだったが、1社だけ「面白そうな内容ですね。協力できると思います。」との回答をもらった。まさに、地獄で仏、だ。

そして、その会社とのやり取りを続け、先日は現場で煉瓦積みやシーリングの職人さんも交えての現場打合せとなった。今振り返っても、終わりのない物語を読み進めているような感じが続いたが、現場打合せまで辿り着いたことが不思議な感じがする。だが、まだ実際にその目指すガラススクリーンが完成した訳ではない。その完成に対して積極的な人達としっかり協力して、完成したものを建築主の笑顔とともに眺められる日を想像しながら進めて行きたいと思う。

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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