〔設問1〕(1)D(再婚妻)は下線部ア(私は亡Aの妻として甲建物に居住していたのだから、Aの死亡後も無償で甲建物に住み続ける権利がある)の反論に基づき、請求1(BはDに対し、共有持分権に基づいて甲建物の明渡しを請求)、請求2(明渡しまで1か月当たり5万円(甲建物の賃料相当額である月額20万円の4分の1)の支払いを請求)を拒むことができるか否か
・Aの死亡(相続は死亡によって開始する(882))
↓
B及びC(被相続人の子は相続人となる(887Ⅰ))、
D(被相続人の配偶者は常に相続人となる(890))、
が共同相続(相続により被相続人のもとで形成されてきた財産関係が一体として相続人によって承継される(896))
↓
甲建物をDが2分の1、B及びCがそれぞれ4分の1ずつ、共有持分を有する(900①、898Ⅰ、Ⅱ)
・下線部ア
=配偶者短期居住権
・請求1
=甲建物の4分の1の共有持分権に基づく建物の明渡請求権
・請求2
=Dの持分を超える使用対価の償還請求権
・配偶者居住権
:被相続人の配偶者は被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次のいづれかに該当するときはその建物の全部について無償で使用・収益をする権利を取得する(1028Ⅰ)
①遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
※遺贈:被相続人が遺言によって他人に自己の財産を与える処分行為(単独行為)(964)
③被相続人と配偶者との間に配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約があるとき(554、1028Ⅰ②)
↓
被相続人が配偶者の居住する建物を相続開始の時に第三者と共有していた場合は配偶者居住権は成立しない(1028Ⅰ但書)
・配偶者短期居住権(1号)
:居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合、被相続人の配偶者(生存配偶者)は被相続人の財産に属した建物を相続開始の時に無償で居住の用に供していたときは遺産の分割により、その建物(居住建物)の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間はその建物を無償で使用する権利(1037Ⅰ①)
※収益は不可(配偶者居住権との異同)
↓(要件)
①相続開始の時に、②被相続人所有の建物に、③無償で居住していて、④現在も同建物に居住している、⑤配偶者
↓(効力)
・善管注意義務(1038Ⅰ)
・第三者使用の原則禁止(1038Ⅱ)
↓(違反した場合)
居住建物取得者は配偶者に対する意思表示により、配偶者短期居住権を消滅させることができる(1038Ⅲ)
〔設問1〕(2)D(再婚妻)は下線部イ(甲建物を共同で相続)の反論に基づき、請求1(BはDに対し、共有持分権に基づいて甲建物の明渡しを請求)、請求2(明渡しまで1か月当たり5万円(甲建物の賃料相当額である月額20万円の4分の1)の支払いを請求)を拒むことができるか否か
・共有(意義)
:数人が持分を有して1つの物を共同所有する場合であり、かつ、各自の持分が顕在化しているもの
・合有(意義)
:数人が持分を有して1つの物を共同所有する場合であるが、各自の持分が潜在的なもの
・総有(意義)
:数人が1つのものを共同所有しているが、各自に持分がないもの
・共有物の使用(249)
①各共有者は共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる
②共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う
③共有者は善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない
・共有物の変更(形状又は効用の著しい変更)
↓
共有者全員の同意が必要(251Ⅰ)
・共有物の管理(変更まで至らないもの)
↓
各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する(252Ⅰ)
ただし、保存行為は各共有者が単独ですることができる(252Ⅴ)
・共有者相互間の明渡請求(最判S41.5.19 Ⅰ-74)(参考判例)
:共有者間では「当然には」共有物の明渡しを請求することができない
「多数持分権者が少数持分権者に対して、共有物の明渡を求めることができるためにはその明渡を求める理由を主張し、立証しなければならない」
・Bに明渡しを求める理由はなく、B・Cの合計持分割合も過半数に届かないため、Dは反論に基づき請求1を拒むことができる。
他方、Dは自己の持分を超える使用を行っているため、反論に基づいて請求2を拒むことはできない。
〔設問2〕(1)下線部ア(契約①が同年10月31日に解除)におけるEの主張の根拠とその当否
・催告による解除(541)
↓(要件)
①債務不履行、②履行の催告、③相当の期間の経過、④解除の意思表示
・Fに契約①の代金支払義務(555)の債務不履行なし
↓そうであれば、
引取義務の不履行を理由に解除できないか
↓受領遅滞を構成するか
受領遅滞制度の効果は不利益・負担の調整であるから、債務不履行があるとは言えない
↓しかし、
履行費用の増加の買主負担(413Ⅱ)などでは補填できない法的利益が問題となる場合は、信義則(1Ⅱ)または黙示の合意により、買主に引取義務が認められる
・受領遅滞(意義)
:債務の履行につき、受領その他債権者の協力を必要とする場合において、債務者が弁済の提供をしたにもかかわらず、債権者が必要な協力をしないために履行遅延の状態にあること。受領遅滞によって生じる不利益・負担は債権者が引き受けなればならない(413、413の2Ⅱ)
・引取義務が不履行に陥る時期
↓
受領遅滞と同様に弁済の提供(現実の提供、口頭の提供)を行ったにもかかわらず、受領がなされなかったときから
・催告による解除の要件を満たしたとしても、「債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除は認められない(541但書)
↓
契約目的の達成に重大な影響を与える不履行である場合には認められる
〔設問2〕(2)下線部アにおけるEの主張が正当であるとした場合、EはFに対し、下線部イ(本件コイの代金相当額100万円及び釣堀の営業利益10万円)の損害全部について賠償を請求することができるか
・契約①が解除されても契約①の債務不履行(415Ⅰ)を理由とした損害賠償請求は妨げられない(545Ⅳ)。また、Fに免責事由も認められない
・債務不履行(意義)(415Ⅰ)
:債務者が債務の本旨に従った履行をしないこと
↓(効果)
債権者は債務者に対して、債務不履行を理由として損害賠償を請求することができる
↓ただし、
債務不履行が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」による場合には、債務者は損害賠償責任を負わない
・本件コイの代金相当額100万円は通常損害(416Ⅰ)
↓ただし、
Eは契約①の解除により、本件コイの引渡義務を免れている
↓そのため、
契約解除時の10月末の相場を基準時とすべきで、100万円-(7000円×100)=30万円にとどまる
・損害賠償の内容(差額説)
:債務不履行がなければ債権者が置かれたであろう状態と債務不履行があったために債権者が置かれている状態との差を差額であらわしたものが損害であるとする立場
↓計算の仕方として、
債権者の損害を財産的損害と非財産的損害(慰謝料など)に分け、財産的損害についてはさらに積極的損害(財産の積極的な減少)と消極的損害(増加するはずであった財産が増加しなかったこと。逸失利益など)に分け、その上で個別の損害項目ごとに金額を算出して積算するという方法を採用
・Eの釣堀の営業利益10万円にかかる損害は「特別損害」と言えるか
↓
特別損害の賠償が認められるには債務者が特別の事情を「予見すべきであったこと」が必要であり、この特別の事情と10万円の損害の間に相当因果関係があることを要する
・通常損害(416Ⅰ)
:債務不履行によって通常生ずべき損害
・特別損害(416Ⅱ)
:当事者が特別の事情を予見し、または予見すべきであったときに生じる損害
↓
債務者により賠償されるべき損害は債務不履行と相当因果関係のあるものであるとの考え方
〔設問3〕
・賃料債権への物上代位の可否
↓
果実への抵当権の効力(371)により、抵当権者は被担保債権の不履行の後に生じた賃料を収受することができるから、賃料債権への物上代位も認められるべきである
(抵当権の物上代位(1)-賃料債権 H元.10.27 Ⅰ-87)
・抵当権(369)(意義)
:債務者または第三者から特定の不動産(または地上権、永小作権)を担保にとり、被担保債権が弁済されない場合にはその不動産の交換価値から他の債権者に優先して自己の債権の満足を受けることができる物権
↓
抵当権者は目的物の価値代替物に対して物上代位することができる(372、304)
・転貸賃料への物上代位の可否
↓
転貸賃料債権は抵当権設定者が直接に取得する債権ではないことから、原則としてこの債権への物上代位を否定
↓ただし、
抵当不動産の転貸人を所有者と同視することを相当とする場合(抵当権の行使を妨げる目的で賃貸借を仮想し、転貸借関係を作出した事情等)、物上代位を肯定(最決H12.4.14)
↓また、
抵当権者はその払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならない(372、304Ⅰ但書)
・(債務不履行前の)5月分の賃料債権への物上代位の可否
↓
α債権との関係で債務不履行に陥ったのは令和5年5月31日経過時
↓(372条説の場合)
371条は担保不動産収益執行の実体法上の基礎を与える趣旨にとどまり、時期的範囲を画する規定ではない
↓そのため、
債務不履行前に発生した賃料についても、払渡しまたは引渡しがなされていない限り、物上代位権を行使することができる
↑(371条説の場合)
債務不履行以後に限定されているため、物上代位権を行使することができない
参考文献
:民法〔第3版〕・潮見佳男(有斐閣)
民法判例百選Ⅰ〔第8版〕、民法判例百選Ⅱ〔第8版〕、民法判例百選Ⅲ〔第2版〕(有斐閣)
司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)