〔設問1-1〕甲の罪責
・傷害罪(204)
:人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
・「傷害」
:人の生理機能の侵害
・1項強盗罪(236Ⅰ)
:暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は強盗の罪とし、5年以上の有期拘禁刑
・客体
:他人の財物(他人が所有権を有する財物)
・「暴行又は脅迫」
:被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のもの
(本件の場合、反抗抑圧後に奪取意思を抱いており、新たな暴行脅迫が必要であるが、反抗抑圧状態が維持継続するものであれば足りる)
・「強取」
:暴行・脅迫により被害者などの反抗を抑圧して財物を奪取すること
・併合罪(45)
:確定裁判を経ていない2個以上の罪
〔設問1-2〕乙の罪責
・2項強盗罪(236Ⅱ)
:前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も同項と同様とする
・「財産上…の利益」
:債権など有体物以外の財産的権利・利益
↓しかし、
移転可能性に疑問のある情報やサービスなどを広く含めることができるかは問題
↓そこで、
移転を観念しうるような対価を支払うべき有償のサービスなどの財産的利益に限り、客体となりうると解する(ex.カードの暗証番号等)
・未遂(43)
:構成要件該当事実の実現に着手したが、それを成し遂げるに至っていない段階
・実行の着手時期(実質的客観説)
:既遂犯の構成要件的結果を生じさせる危険性が認められる行為への着手の時点で実行の着手が認められる
↓
実行行為の危険性が現実化すると因果関係が肯定されて既遂となる
・窃盗罪(235)
:他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金
・「財物」
:有体物(空間の一部を占めて有形的存在を持つ、固体・液体・気体)に限られる。(有体性説)(通説)
・財産的価値
:客観的な交換価値はなくとも、主観的な使用価値が認められれば足りる
・刑法における占有
:財物に対する事実上の支配(代理占有、占有改定等は認められない)
・占有の存否
:財物に対する支配(占有の事実)という客観的要件と、支配意思(占有の意思)という主観的要件を総合して社会通念に従い判断される
※①取得した財物に他人の占有が存在したか否か
:窃盗罪か、遺失物横領罪か
②取得した財物の占有が他人なのか、自己なのか
:窃盗罪か、横領罪か
・客体
:他人の財物(他人が所有権を有する財物)
↓
現在の判例においては、占有侵害の存在により窃盗罪の構成要件該当性を肯定し(占有説)、行為者の権利行使の側面は違法性阻却において考慮する立場(独立説)が採られている
・「窃取」
:他人が占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転させること
・既遂時期
:行為者又は第三者が財物の占有を取得したとき
・不法領得の意思
:権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、利用・処分する意思(判例・通説)
・不能犯
:犯罪を遂行しようとする者の行為が外形的には実行の着手の段階に至っても既遂犯の構成要件的結果を惹起することが不可能であるため、未遂犯の成立が否定されて不可罰とされる場合
↓(判断基準)
一般人が行為の時点で認識可能な事実に基づいて、結果惹起の可能性・蓋然性を判断(具体的危険説)
〔設問2〕(1)丙に正当防衛が成立することの証明
・暴行罪(208)
:暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の拘禁刑、若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
・「暴行」
:人に対する物理力の行使
・正当防衛(36Ⅰ)
:急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
↓
「刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることができないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。」(最判H29.4.26 Ⅰ-23)
・「急迫不正の侵害」
:違法な侵害が現に存在し、又は間近に押し迫っていること
↓
「侵害を予期していたとしても侵害の急迫性は直ちに失われるものではない。」(最判S46.11.16)
↓
「その機会を利用して積極的に相手に加害行為をする意思(積極的加害意思)で侵害に臨んだときには侵害の急迫性の要件は充たされないとしている。」(最判S52.7.21)
・「防衛するため」
:侵害に対応する意思としての防衛の意思が必要
・「やむを得ずにした行為」
:防衛行為の正当性
〔設問2〕(2)①甲の罪責
・幇助(62Ⅰ)
:正犯に物的・精神的な援助・支援を与えることによりその実行行為の遂行を促進し、さらには構成要件該当事実の惹起を促進すること
〔設問2〕(2)②丁の罪責
・共同正犯(60)
:「2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」
↓
謀議・共謀に基づいて犯罪の実行が行われた場合には謀議関与者について実行行為の分担の有無を問わず、共同正犯としての罪責が問われることになる。
↓
「共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれの要件を満たすかどうかを検討して決するべき」(最判H4.6.5 Ⅰ-90)
参考文献
:刑法〔第4版〕・山口厚(有斐閣)
刑法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第8版〕(有斐閣)
司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)