任意的訴訟担当、裁判上の自白、既判力(2024司法試験-民事訴訟法)

〔設問1〕任意的訴訟担当の意義と要件

・第三者による訴訟担当(意義)
:訴訟物である権利義務の主体とはされていない第三者がその訴訟物について当事者適格を認められ、その第三者の受けた判決の効力が実体法上の権利義務の主体とされている者に対しても及ぶ場合

(1)法定訴訟担当(法令の規定に基づく)
ex)債権者代位訴訟(民423)、取立訴訟(民執155、157)、株主代表訴訟(会847)、破産管財人(破80)、遺言執行者(民1012)
(2)任意的訴訟担当(権利義務の主体とされる者の授権に基づく)
ex)選定当事者(30)、明文のない任意的訴訟担当

・任意的訴訟担当(意義)
:権利義務の帰属主体とされる者からの授権に基づいて、第三者に訴訟担当者としての当事者適格が認められる場合
また、権利義務の帰属主体とされる者に対してもその効力が及ぶ(115Ⅰ②)

・明文のない任意的訴訟担当が認められる要件
(1)弁護士代理の原則および訴訟信託の禁止の規律を回避、潜脱するおそれがないこと
(2)任意的訴訟担当を認める合理的必要性があること

〔設問2〕裁判上の自白の意義と要件およびその撤回の可否

・裁判上の自白(意義)
:訴訟の口頭弁論または弁論準備手続の期日における弁論としての陳述であり、相手方の主張を争わない旨の当事者の陳述、またはその結果として生じた当事者間に争いのない状態
↓(要件)
(1)口頭弁論または弁論準備手続における弁論としての陳述であること
(2)事実についての陳述であること
(3)相手方の主張との一致であること
(4)自己に不利益な陳述であること
↓(効果)
(1)証明不要効
:自白された事実は証拠による証明を要しない(179)
(2)審理排除効
:裁判所は自白された事実に関して審理を行ってはならない
(3)判断拘束効
:裁判所は自白された事実を必ず判断の基礎にしなければならない
(4)撤回制限効
:当事者は自白の撤回が制限される

・自白の撤回の要件
(1)相手方が自白の撤回に同意した場合
(2)相手方または第三者の刑事上罰すべき行為によって自白をするに至った場合
(3)自白された事実が真実であるという誤信に基づいて自白がなされた場合
↓ただし、
争点整理手続中に自白がなされても争点整理作業が完了するまでは自白の撤回は争点整理後よりも柔軟に認められるものと解すべき

〔設問3〕期待可能性の不存在による既判力の縮小の可否

・既判力(意義)
:いったん判決が確定すると、もはやその判決を上訴等の通常の不服申立方法によって覆すことができなくなる(形式的確定力)のはもちろん、新たな訴えを提起するなどの方法によってその判断内容を争うことも許されないものとされる。このように確定判決はその事件を決着済みのものとし、判決の内容を以後の当事者間の関係を規律する基準として通用される効力を有する。確定判決の持つこうした通有性、ないし拘束力を既判力と呼ぶ。
↓(効果)
裁判所は同一あるいは関連する訴訟物に関する後訴において、当該権利関係の存否について前訴判決と異なる判断をすることができなくなるし、当事者もまたその点について前訴判決に反する主張をすることができないことになる。
↑(根拠)
民事訴訟制度の機能である権利保護あるいは紛争解決の実行性を確保するためには、いったん判決の確定により終結した事件についてはもはや争う余地がないものとし、紛争の蒸し返しを防ぐことが望ましい。
↓(作用する局面)
(1)後訴の訴訟物が前訴の訴訟物と同一の場合
(2)前訴の訴訟物が後訴の訴訟物の先決問題となっている場合
(3)前訴の訴訟物と後訴の訴訟物とが矛盾関係に立つ場合

既判力による拘束は正しい事実認定に依拠した正当な法の解釈適用を実現するに足る手続をその当事者に対する十分な手続保障のもとで遂行した結果であると認められる限りで正当化される。

・既判力の時的限界
↓(原則)
既判力の基準時は事実審の口頭弁論終結時である。
↓(例外)
基準時後に新たに発生した事実を主張することは、前訴判決の既判力に矛盾するものではなく遮断されない。

・期待可能性の不存在による既判力の縮小

基準時前の事実であっても、当事者にとっておよそ主張の期待可能性がなかった事実については、既判力による遮断が正当化されないのではないか。
↓しかし、
前訴で提出できなかった攻撃防御方法を主張するための再審を刑事上罰すべき他人の行為による場合に限って認めている。(338Ⅰ⑤)(厳格な制限を設けている)
↓よって、
当事者の知・不知のような主観的事情によって既判力を緩和することを認めると、後訴裁判所ではその点に関する煩雑な審理を余儀なくされることとなり、法的安定性の確保という既判力制度の趣旨を害する。
↓以上より、
基準時前に生じていた事由について、既判力の縮小を認めるのは相当ではない。
ただし、著しい事情変更や実質的に基準時後の事由と同視すべきものについては認める余地はある。

参考文献
:LEGAL QUEST 民事訴訟法〔第4版〕・三木浩一、笠井正俊、垣内秀介、菱田雄郷(有斐閣)
 民事訴訟法判例百選〔第6版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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