監査役の違法行為等差止請求権、株主の決議取消しの訴え、株式併合によるキャッシュ・アウト(2024司法試験-商法)

〔設問1〕(1)監査役Dが株主乙社の招集した本件臨時株主総会1の開催をやめるように求める手段の有無

・監査役(意義)
:取締役(+会計参与)の職務の執行を監査する機関

・監査役の職務権限
(a)調査権限(報告請求・業務財産状況調査権)(381Ⅱ)
(b)報告義務(382)
(c)取締役会への出席義務等(383Ⅰ-Ⅳ)
(d)株主総会の議案等の調査・報告(384)
(e)違法行為等差止請求権(385Ⅰ)
(f)取締役との間の訴訟の会社代表(386Ⅰ①)
(g)各種訴訟の提起権(834)
(h)監査報告(381Ⅰ後段)

・違法行為等差止請求権
:「監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。」(385Ⅰ)
・趣旨
:会社の機関的地位にある者の違法行為を会社の違法行為として差し止めること。

・株主総会(意義)
:議決権を有するすべての株主によって構成される株式会社の意思決定機関

・株主による株主総会の招集の請求および招集
:取締役が招集することが原則。(296Ⅲ)
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6カ月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、議題および招集の理由を示して株主総会の招集を請求することができる。(297Ⅰ)
一定の期間内に株主総会が招集されない場合は、当該株主は裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集できる。(297Ⅳ)
この場合は、当該株主が招集権者として298条1項各号の事項を定める。

・結論
:本件臨時株主総会1は株主乙社が裁判所の許可を得て招集したものであり、株主乙社は機関的地位に立つことになるため、385条1項類推適用による差止めという手段がある。

〔設問1〕(2)株主Eが株主総会決議の取消しの訴えを提起した場合の株主Eの主張とその当否

・株主総会決議の瑕疵を争う訴え(目的:法律関係の画一的確定)
①決議不存在確認の訴え(830Ⅰ)
②決議取消しの訴え(831)
③決議無効確認の訴え(830Ⅱ)

・決議取消しの訴え(原告:株主等、被告:株式会社)
:株主総会の決議に831条1項各号所定の瑕疵があるときは同項所定の者が決議後3カ月以内に訴えをもってのみ当該決議の取消しを請求することができる。

・決議取消し事由
(a)招集手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正な場合(831Ⅰ①)
(b)決議の内容が定款に違反する場合(831Ⅰ②)
(c)決議の結果について特別の利害関係を有する者(特別利害関係人)の議決権行使により、著しく不当な決議がされた場合(831Ⅰ③)

・利益供与の禁止(120Ⅰ)
:株式会社は何人に対しても株主の権利に関し、当該会社またはその子会社の計算において財産上の利益を供与してはならない。
・趣旨
:株主権の行使を経営陣の都合の良いように操作する目的で会社財産を浪費されること、および株主の意思を歪めることを防止し、会社経営の公正性、健全性を確保することにある。
・参考判例:書面による議決権行使と委任状勧誘(モリテックス事件)(東京地判H19.12.6百選31)

〔設問2〕本件株式併合の効力について丙社が採ることができる会社法上の手段に関しての丙社の主張とその当否

・キャッシュ・アウト(意義)
:買収者が対象会社の発行する株式全部を当該株式の株主の個別の同意を得ることなく、金銭を対価として取得する行為。
対象会社の事業に継続的に投資することを望む株主の意思に反して、株主を対象会社から退出させる側面を有する。
・キャッシュ・アウトの方法
①対象会社の株式総会の特別決議による承認を得て行うもの
↓(具体的方法)
(1)金銭を対価とする株式交換、(2)株式の併合、(3)全部取得条項付種類株式の取得
②買収者が対象会社の総株主の議決権の10分の9以上の議決権を有する場合に対象会社の株主総会の決議を経ずに行う
↓(具体的方法)
(1)金銭を対価とする略式株式交換、(2)特別支配株主による株式等売渡請求

・株式の併合、および全部取得条項付種類株式の全部取得については、その効力を争う特別の訴えの制度(828参照)は存在しない。
↓そのため、
株主総会等の決議の効力を争う方法によることになる。

・109条1項違反に基づく決議内容の法令違反(830Ⅱ)

・株式の併合(意義)
:数個の株式を合わせて、それよりも少数の株式にすること。(180Ⅰ)
※会社財産に変動は生じさせない。
・株式併合の手続

株主総会の特別決議により併合の割合や株式併合の効力が生じる日等を定める(180Ⅱ、309Ⅱ④)

取締役は株主総会で株式の併合を必要とする理由を説明しなければならない。(180Ⅳ)

・株式併合に関しての株主の保護規定
①事前の情報開示(182の2)
②差止請求権(182の3)
③端数株式の買取請求権(182の4)
④事後の情報開示(182の6)

・株主平等の原則(意義)(109Ⅰ)
:株式会社は株主をその有する株式の内容および数に応じて平等に取り扱わなければならない。
・同原則の機能
:株式投資の収益の予測可能性を高め、株式投資を促すことにある。

・特別利害関係人による著しく不当な決議(831Ⅰ③)

・特別利害関係人(意義)
:問題となる議案の成立により他の株主と共通しない特殊な利益を獲得し、もしくは不利益を免れる株主。

参考文献
:会社法〔第4版〕・田中亘(東京大学出版会)
 会社法判例百選〔第4版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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