〔設問1〕(1)E及びFに原告適格が認められるか
・原告適格(行訴法9Ⅰ)
:「法律上の利益を有する者」であれば原告適格が認められる。
「法律上の利益を有する者」について、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう、とした上で、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的利益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者は当該処分の取消訴訟における原告適格を有する
・参考判例 林地開発許可と第三者の原告適格(最判H13.3.13 Ⅱ-157)
・森林法(以下、省略)10条の2第2項第1号は森林の災害防止機能に照らして「土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」、同項1号の2は森林の水害防止機能に照らして「水害を発生させるおそれがあること」に着目して、不許可要件を定めている。これらの規定は、土砂災害又は水害により直接的被害を受ける人の生命、身体の安全等を保護する趣旨・目的である。同項各号の趣旨・目的及び利益の内容・性質等に照らすと(行訴法9条2項)、これらの規定は土砂災害・水害防止機能という森林の有する公益的機能確保にとどまらず、土砂災害又は水害による直接的被害を受ける住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。
↓これに対して、
同項2号は森林の水源かん養機能に照らして「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」に着目した不許可要件を定めている。水源確保は一般的公益に吸収解消される一般的公益であって、特定人の個別的利益保護の趣旨を含まない。
・Eは所有地及び所有林を有しているが、C市外に居住し、D山を水源とする水道水を使用していないことから、生命身体利益や水源利用の利益を有しない。また、10条の2第2項第1号は土地所有権等に着目した不許可要件を置いておらず、1条の目的規定においても財産権保護の趣旨を読み取ることはできない。
↓よって、
Eの所有地及び所有林が土砂災害・水害による直接的被害を受けたとしても、Eに原告適格は認められない
・Fは本件沢の水を飲料水や生活用水として使用しているが、水源利用の利益は原告適格を基礎づけない。
↓しかし、
本件開発区域の外縁から200メートル下流部の本件沢沿いの居住者であり、土砂災害及び水害により直接的に生命身体利益を害されるおそれがある
↓よって、
Fは「法律上の利益を有する者」に該当し、原告適格が認められる
〔設問1〕(2)仮にEが本件開発行為に同意し、Fのみが同許可の取消訴訟を提起した場合、同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了した後においてもFに訴えの利益は認められるか
・訴えの利益
:取消訴訟を利用するためには原告の請求が認容された場合、原告の具体的な権利利益が客観的にみて回復可能でなければならない
・参考判例 建築確認と訴えの利益(最判S59.10.26 Ⅱ-170)
↓(判断枠組み)
①建築確認はそれを受けなければ工事をすることができないという法的効果を有するにとどまり、②建築確認の存在は検査済証の交付拒否又は違反是正命令発出の法的障害にはならず、③検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない
・本件許可はそれを受けなければ工事をすることができないという法的効果を有するにとどまる(①)。また、客観的にみて10条1項所定の要件に適合しない開発行為について誤って開発許可処分がされた場合には、「前条第1項の規定に違反した者」(10条の3)に該当するものとして復旧命令をすることが可能であり、本件許可の存在は復旧命令の法的障害にならない(②)。さらに、「命ずることができる」(10条の3)という文言からすると復旧命令を出すか否かについては効果裁量があるため、本件許可が取り消されたとしても、取消判決の拘束力(行訴法33条1項)により復旧命令を出すことは法的に義務付けられない(③)
↓したがって、
本件開発行為に関して工事完了した場合、「回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項括弧書き)は残存しておらず、Fに訴えの利益は認められない
〔設問2〕B県知事がAに対し本件許可申請に係る許可をし、Fが同許可の取消訴訟を提起した場合、Fによる違法事由の主張を挙げ、それぞれに対するB県の反論の検討
・行政裁量
:法律が行政機関に独自の判断余地を与え、一定の活動の自由を認めている場合のこと
↓ただし、
裁判所は裁量処分について裁量権の逸脱・濫用があった場合にのみ取り消すことを定める(行訴法30)
↑(趣旨)
裁量行為について裁判所の審査範囲が限定されるのは裁量が個々の問題ごとに実際に執行活動にあたる行政部門の方がより的確な対応ができるという立法者の判断に基づいて認められるものであり、したがって、裁判所も基本的には行政庁の判断を尊重するのが好ましいという考え方に依拠している
↓(行政裁量が問題となるステージ)
①事実認定
②法律要件の解釈と認定事実のあてはめ(要件裁量)
③手続きの選択
④行為の選択(効果裁量)(どのような処分をし、その処分をするかしないか)
⑤時の選択
↓(行政裁量の審査基準)
基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合(他事考慮)、又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと(合理性欠如)、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当を欠くものと認められる場合(考慮不尽)、に裁量権の逸脱・濫用となる
(参考判例 都市計画と裁量審査-小田急高架訴訟本案判決(最判H18.11.2 Ⅰ-72))
・1.本件許可基準1-1-①について
↓
Fは「相当数の同意」(10条の2第1項、森林法施行規則4条2項)は審査基準(行手法2条8号ロ)として設定・公表されている本件許可基準1-1-①において権利者数の3分の2以上とされており、Eの同意書添付がなければ2分の1が不同意ということになるから、Eの同意書添付を欠けば本件許可は違法であると主張しうる
↓だが、
水源の確保対策等の必要性や措置の妥当性の評価などに関する専門技術的判断の必要性や公益考慮の必要性があるため、開発許可はB県知事に広範な裁量が認められる裁量処分であり、抽象的・規範的要件である「相当数の同意」の判断には広範な要件裁量があるため、要件裁量の逸脱・濫用ではない限り、違法とはならない
↓それを踏まえ、
本件許可基準1-1-①の趣旨は開発行為の完了が確実であるといえるかを判断するために申請者に過度な負担を課さない範囲での権利者の同意を求める趣旨であるから、開発行為の完了が確実であるといえるかを判断できるのであれば、機械的に権利者数により判断するのではなく、所有林面積割合という個別事情を考慮することは要件裁量の範囲内であると言える
↓したがって、
「相当数の同意」の有無を判断するに際して所有林面積割合を考慮し、98%の所有林を有するAの同意があれば必ずしも2%の所有林しか有しないEの同意を不要としても、要件裁量の逸脱・濫用とはならない、との反論
・2.本件許可基準1-1-②について
↓
Fは本件認定(本件条例7条3項)により「規制対象事業場」(本件条例2条5号)であるAの施設の設置が禁止され(本件条例8条)、本件許可基準1-1-②の「法令等による土地の使用に関する制限等に抵触しないこと」を充足せず、ひいては10条の2第2項2号の不許可事由に該当する、と主張
↓これに対して、
B県は事前協議条項(本件条例7条1項・3項)に照らしてC市長にはAの権利・地位を不当に侵害しないように事前に十分な協議を尽くすべき義務があり、丁寧な事前協議を行ってAの協力を得られれば水源枯渇の問題は生じず、Aの施設を「水道に係る水源の枯渇をもたら」すような「規制対象事業場」(本件2条5号)と認定する本件認定をすることもなかったのだから、本件認定は事前配慮義務に違反し違法であると反論しうる。
また、C市は本件申請後に事後的に本件条例を制定し、本件計画の阻止を意図して本件認定を行っている。そのため、B県は本件認定を権利濫用(民法1条3項)であり違法であると反論もできる
・3.本件許可基準4-1について
↓
Fは本件貯水池の容量が少なく生活用水に不足が生じるため、「必要な水量を確保」するために貯水池などの措置が適切に講じられておらず、本件許可基準4-1に適合せず、ひいては10条の2第2項2号は「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」があると主張しうる
↓これに対して、
B県は10条の2第2項2号は「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」という抽象的・規範的要件の認定にはB県知事の広範な要件裁量があり、本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池の設置をもって「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」がないとの判断も可能である。
↓よって、
要件裁量の逸脱・濫用ではない限り、違法とはならないと反論する。
参考文献
:行政法〔第6版〕・櫻井敬子 橋本博之(弘文堂)
行政判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第8版〕(有斐閣)
司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)