〔設問1〕(1)GによるAの任務懈怠責任に基づく損害賠償請求の成否
・任務懈怠責任(意義)
:役員等が任務を怠った場合は株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任(423Ⅰ)
↓(要件)
①役員等の任務懈怠、②会社の損害の発生、③任務懈怠と損害との間に相当因果関係があること、④免責事由の不存在
・任務懈怠責任の免除
↓(要件)
①株主全員の同意(424)、②会社による免除の意思表示(民519)
・Aは甲社の一人株主のため、任務懈怠責任の免除要件を満たす
↓
甲社の財務状態は健全で会社債権者を害する恐れはない。また、株主Gの要保護性も小さい
↓よって、
Aは任務懈怠責任を負うものの、責任免除の同意、意思表示がされたといえるから、Aの責任は免除済みである
↓以上より、
GによるAに対する損害賠償請求は認められない
〔設問1〕(2)乙社のAに対する、第三者に対する損害賠償責任の請求の成否
・役員等がその職務を行うについて悪意または重過失があったときは当該役員等はこれによって生じた損害を賠償する責任を負う(429Ⅰ)
↓(本規定の解釈)
①本規定による責任は不法行為責任(民709)とは独立の責任である
②同項にいう悪意・重過失は会社に対する任務懈怠について必要である
③責任範囲は直接損害・間接損害の両方を含む
↓(要件)
①役員等が株式会社に対する任務を懈怠したこと
②当該任務懈怠について役員等に悪意・重過失があること
③第三者に損害(直接損害または間接損害)が生じたこと
④当該損害と任務懈怠との間に相当因果関係があること
〔設問2〕(1)(2)準共有株式に関わる、原告適格および訴えの利益の有無ならびに決議取消請求の成否
・準共有株式の権利行使の方法
↓(原則)
株式の共有者は当該株式についての権利行使者を1人定めて株式会社に通知しなければ当該株式についての権利を行使できない(106)
判例は共有持分の過半数による多数決(民252)での指定を認める
(共有株式の権利行使者の指定方法 最判H9.1.28 10)
↓(趣旨)
各共有者の意向から会社を解放する点で会社の便宜を図る
↓(例外)
株式会社が同意すれば株式の共有者は権利行使者の指定・通知をしなくても権利の行使ができる(106但書)
↓しかし、
共有者の株主権行使が民法の共有の規定に従わずにされた場合にまで会社が同意さえすれば当該株主権行使が有効となるわけではない
(会社法106条但書の法意 最判H27.2.19 11)
↓(例外)
信義則に反するといえるような特段の事情があるときは共有者の1名による権利行使が認められる
(相続による株式の共有-総会決議不存在確認訴訟の原告適格 最判H2.12.4 9)
・本小問の事案では本件準共有株式について、権利行使者の指定・通知はなされていない
↓しかし、
本件株主総会1において、議長Bは甲社を代表して、Hが本件準共有株式の全部について議決権行使することに同意しており(106条但書)、甲社はそれを前提に本件決議1が成立したと主張することになる。
本件決議1は役員選任決議であり、議決権を行使できる株主の議決権(6万個)の過半数を有する株主の出席を要するところ(341)、本件準共有株式を除く、B、C、およびDの持株のみであれば(議決権数は計2万個)、定足数不足で本件決議1は成立しない
↓それにもかかわらず、
甲社が権利行使者の指定・通知がないことを理由にIの原告適格を否定することは、判例で「特段の事情」ありと認められた場合と同程度に信義に反するというべきである
↓よって、
Iは本件訴えに係る原告適格を有する
・株主総会決議の瑕疵を争う訴え
↓
①決議取消しの訴え
②決議不存在確認の訴え
③決議無効確認の訴え
↓(効果)
法律関係の画一的確定
・決議取消しの訴え(831Ⅰ)
:株主等は株主総会の決議により831条1項各号所定の瑕疵があるときは株式会社に対して同項所定の者が決議後3ヶ月以内に訴えをもってのみ当該決議の取消しを請求することができる(形成訴訟)
・決議取消事由
(a)招集手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正な場合(831Ⅰ①)(決議の手続に瑕疵がある場合)
(b)決議の内容が定款に違反する場合(831Ⅰ②)
(c)決議の結果について特別の利害関係を有する者(特別利害関係人)の議決権行使により著しく不当な決議がされた場合(831Ⅰ③)
※特別利害関係人
:決議の結果について他の株主とは共通しない利害を有する者
・役員選任決議取消しの訴え-役員が退任した場合と訴えの利益(最判S45.4.2 36)
:「株主総会決議取消の訴は形成の訴であるが、役員選任の総会決議取消の訴が係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員がすべて任期満了により退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員がもはや現存しなくなったときは、右の場合に該当するものとして、特別の事情のないかぎり、決議取消の訴は実益なきに帰し、訴の利益を欠くに至るものと解するを相当とする。」
・先行決議の瑕疵が取消事由である場合に、後行決議への瑕疵の連鎖を肯定し、それを前提に先行決議の取消しを求める訴えの利益は、特段の事情のない限り、消滅しない
(取締役選任決議の不存在とその後の取締役選任決議の効力(最判H2.4.17 39))
・瑕疵の連鎖(意義)
:先行決議の瑕疵が後行決議の効力にも影響を及ぼすこと
参考文献
:会社法〔第4版〕・田中亘(東京大学出版会)
 会社法判例百選〔第4版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2023・法学セミナー編集部(日本評論社)
