設計の仕事は連絡のやり取りの連続であると言える。良い連絡もあれば悪い連絡もある。設計依頼の連絡。建材メーカーからの営業の連絡。建築主との打合せのやり取りの連絡。設計者から建材メーカーへの問合せ連絡。施工者への見積依頼の連絡。工事が始まれば現場監督とのやり取りの連絡。日々、メールや電話でひたすら連絡を取り続けている。
設計依頼の連絡と言えば、設計事務所を営む前は設計事務所ってどうやって仕事を取ってくるのだろうかと謎だった。実際に自分でやってみて分かったことはやっぱり謎ということだ。事務所を始める前はそんなに多くなくとも突然電話が鳴って、「設計をお願いします。」という連絡が年に数回でもあるものだと思っていた。今から振り返れば楽観的すぎる。年に1回でもそんなことがあれば、明日はひょうが降るんじゃないだろうかと思ってしまう。実際は最初から設計依頼ありきの連絡はほぼなく、「困っているので、助けてもらえませんか。」というパターンがほとんどだ。かつ、直接的に知っている人からはほぼなく、間接的に私を知っている人からの連絡が多い。そして、その困りごとがたまたま設計依頼に繋がったという結果論でしかない。
また、困っているから助けるという流れが多いとしても、それが本来の設計の仕事に繋がるかどうかの確率で言えばさらに低くなる。
突然電話が鳴って「ある企業の社宅の計画があるので、手伝って頂けませんか」という連絡は毎年1回は必ずある。1回目は有難い話だと鵜呑みしかけたが、話を聞く内に明らかに怪しいので途中で逃げたが、最近ならその手の電話とすぐに分かるようになったので、相手が話し出して20秒以内には内容と結果がイメージできて、ご苦労様です、とすぐに電話を切れるようになった。成長したもんだ。
また、数年に1回ペースだが、「今後、何棟も施設建設を計画しているが、とりあえずの1棟目として計画作成を手伝ってもらえないか」の相談の連絡も来る。このパターンは補助金が絡んでいたりするので、計画図がないと話が前に進まない。そのため、まず何度も打合せをして計画図を作成して行政に相談に行くわけだが、ほとんどの場合、補助金の雲行きが怪しくなると、やり取りしていた担当者からあれだけ連絡が来ていたのにぷっつりと連絡が来なくなる。さらには連絡をしても繋がらなくなる。初期の頃は朝方までかかって図面を修正したり、役所に足繁く通っていたが、直近では初回のたたき台としてのプラン作成は行うが、それ以降の業務は設計監理契約を締結して着手金を払ってもらわない限り、手伝わないようにしている。
相手が建築主であっても詐欺師であっても連絡のやり取りをする時に心掛けていることがある。当たり前と言えば当たり前のことだが、一期一会ではないが、その時たまたま縁があって今まさにこの瞬間にやり取りをしているのだから、それには感謝するようにしている。何かが違えばやり取りすることもなく出会うこともなかった人達かもしれないからだ。だが、私自身もさらには相手にとっても時間と労力の無駄にはならないようなやり取りを心掛けている。双方にとって有意義でないと意味がないからだ。例え、相手が詐欺師だとしても。
いろいろな人とやり取りをしてきて、一番思うことは、世の中にはいろんな人がいるな、ということだ。良くも悪くも。ただどんな人とのやり取りでも一期一会の気持ちで自分自身に誇れるやり取りが結局正しいのだと思う。