〔設問1-1〕破産管財人Dは代表取締役Bの任務懈怠に基づく損害賠償責任の追及のため、破産法上、いかなる手続が認められるか(条文知識問題)
・破産財団(34Ⅰ)
:破産債権者に対する配当の基礎となる、破産者の資産及び負債
↓よって、
A社のBに対する損害賠償請求権は破産財団に帰属
↓しかし、
責任追及を判決手続によって行うことは迂遠
↓そこで、
破産管財人は裁判所に役員責任査定決定の申立て(178Ⅰ)
↓
原因となる事実を疎明(178Ⅱ)、役員を審尋(179Ⅱ)
↓
役員責任査定決定に不服のある者は異議の訴えの提起(180)
↑
役員の財産に対する保全処分(177)
〔設問1-2〕債権者からの資産開示の求めを拒絶するBに対して、破産管財人及び裁判所は資産状況調査のためにいかなる手続を利用することができるか(条文知識問題)
・破産者が破産手続において負う義務
①破産者は破産管財人等の求めに応じ、破産者の財産の内容や所在、破産に至った経緯など、破産に関して必要な説明をする義務を負う(40Ⅰ)
②破産手続開始決定後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金等の重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならない(重要財産開示義務)(41)
↓
説明及び検査の拒絶等(268)、重要財産開示拒絶等(269)、業務及び財産の状況に関する物件の隠滅等(270)の場合には、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
・破産管財人及び裁判所に認められる手続
①破産管財人による、説明請求権及び物件検査権の行使(83)
↓(求めに応じない場合)
刑事罰の付加(268Ⅲ)
②裁判所は破産管財人の職務遂行のために必要があると認めるときは、郵便物等を破産管財人に配達するように嘱託することができる(81Ⅰ)
③破産管財人は嘱託された破産者宛ての郵便物等を開いて見ることができる(82Ⅰ)
〔設問1-3〕否認権の行使について
・否認権
:破産手続開始前の詐害行為・偏頗行為の効力を破産手続上否定し、処分・隠匿された財産を回復し、また債権者の平等弁済を確保する制度
↓(一般的要件)
①有害性
:否認対象行為は破産債権者全体に対して有害なものである必要がある
(否定例-担保目的物によって被担保債権を代物弁済したような場合には当該目的物価額と債権額とが均衡していれば、否認しても再び別除権が実行されて同一の結果がもたらされるので、当該代物弁済は有害性を欠き、否認が否定)
②破産者の行為性
:否認の対象となるのはいずれも「行為」である
(否定例-破産債権者のする相殺は、それが偏頗弁済と同一の結果をもたらすものであっても、債務者の行為がないので否認されない)
③行為の不当性
:(否定例-否認対象行為の目的が破産者の生活の維持や労働者の賃金の支払資金の捻出にあるなど行為の内容、動機、目的等に鑑み、破産法秩序よりも高次の法秩序や社会経済秩序に照らし、保護に値する利益が破産者の行為にあれば、否認の対象にしない)
・詐害行為
:債務者の財産隠匿・処分に関する行為
・偏頗(へんぱ)行為
:一部債権者に対する優先的な弁済行為
・詐害行為否認(160、161)
↓
・破産者が破産債権者を害することを知りながら行った行為を否認(160Ⅰ①)
・支払停止または破産手続開始申立ての後にされた詐害行為についての否認(160Ⅰ②)
・対価的な均衡を欠いた代物弁済の否認(160Ⅱ)
・無償行為の否認(160Ⅲ)
・破産者が相当な対価を得てした処分行為については以下の要件を破産管財人がすべて立証できた場合に限って否認を認める(161Ⅰ)
①その行為が不動産の換価等による財産種類の変更によって破産者の隠匿・無償供与など破産債権者を害する処分のおそれを現に生じさせるものであること
②破産者がその行為の当時、隠匿等の処分をする意思を有していたこと
③行為の相手方が破産者のそのような意思を知っていたこと
・偏頗行為否認(162)
↓
・原則的な基準時は支払不能の時点(162Ⅰ①)
・支払不能は支払停止により推定(162Ⅲ)
〔設問2-1(1)〕再生計画の可決要件(民再172条の3Ⅰ各号)
①議決権者の過半数の賛成
・議決権者は債権者集会に出席した者、または書面投票した者(169Ⅱ②)
②議決権者の議決権総額の2分の1以上の賛成
・民再87条1項各号に応じて算定し、170条2項各号ないし、171条1項各号に基づき確定される
〔設問2-1(2)〕再生手続開始前後の債権の分類および議決権の有無
・再生債権
:再生債務者に対し再生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(84Ⅰ)
↓
再生手続開始前の債権は再生債権に当たる
↓
87条1項1号から3号には分類されない
↓よって、
同項4号に基づき、債権額が議決権の算定基準となる
・再生手続開始後の遅延損害金は84Ⅱ②に該当
↓
再生債権となるものの、議決権は認められない(87Ⅱ)
〔設問2-1(3)〕外国の通貨により額が定められた債権の評価
・外国通貨で定められた金銭債権は「再生手続開始時における評価額」に従い、議決権が定められる(87Ⅰ③ニ)
〔設問2-1(4)〕再生手続において届出がされなかった債権の決議時および計画遂行時の取扱いについて
・自認債権
:再生債務者等が届出がされていない再生債権の存在を知っているときは自認する内容・原因等の事項を認否書に記載しなければならないとするもの(101Ⅲ)
↓ただし、
・自認債権については議決権は認められない
(議決権者を「届出再生債権者」に限定(170、171))
・計画弁済の対象にはなる(157Ⅰ、179Ⅰ)
↓
自認債権から漏れた債権も失権はせず、時期的に弁済を劣後化する(181Ⅰ③、Ⅱ)
〔設問2-2(1)〕再生債務者から届出内容につき異議が出された場合の再生債権者の権利行使についての手段
・債権調査期間の末日から1か月以内に認めなかった再生債務者等や異議を述べた再生債権者の全員を相手方として、裁判所に再生債権の査定を申立て(105)(決定手続による簡易な債権確定の方法)
↓
査定の申立てについての裁判に不服のある当事者は、その裁判の送達から1か月以内に異議の訴えを提起(106)
↓(趣旨)
簡易な査定手続で確定すべきものは確定させ、どうしても争いの残るものだけ訴訟手続で決着
〔設問2-2(2)〕違約金請求権は再生債権として認められるか
・民再49条1項に基づく解除が契約で定められた違約金条項のトリガーとなりうるかが問題
↓
違約金条項は高額な違約金を通じ、解除権行使を事実上制約するため、倒産解除特約と同じく、倒産法上の解除は違約金を発生させる契約の解除とは異なる(名高H23.6.2 78)
参考文献
:倒産処理法入門〔第6版〕・山本和彦(有斐閣)
倒産判例百選〔第6版〕(有斐閣)
司法試験の問題と解説2024・法学セミナー編集部(日本評論社)