横領罪、正当防衛、窃盗罪、緊急避難(2022司法試験-刑法)

〔設問1〕甲に(委託物)横領罪の成立を認める場合、(1)「甲はAに頼まれて本件バイクを保管している以上、これを「横領」すれば横領罪が成立する」という主張の当否(横領罪の客体)。(2)「甲が実家の物置内に本件バイクを移動させて隠した行為は「横領した」に当たる」という主張の当否(横領行為)。

・委託物横領罪(252Ⅰ)
:自己の占有する他人の物を横領した場合に成立(5年以下の拘禁刑)
↓(保護法益)
・所有権及び委託関係
↓(客体)
・自己が委託関係に基づいて占有する他人の物(利益横領は不可罰)

・委託が違法でしかも無権限の場合に委託者との信任関係を保護する必要はないので、委託信任関係が欠ける以上、委託物横領罪は成立しないと解すべき
↓したがって、
(1)の主張は妥当でない

・横領(意義)
:不法領得の意思を実現する一切の行為(領得行為説(判例・通説))

・不法領得の意思(意義)
:他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思(参考判例 横領罪における不法領得の意思(1) 最判S24.3.8 Ⅱ-66)

・物の効用を享受する意思なく、専ら隠匿するための行為は「横領」に該当しない
↓したがって、
(2)の主張は妥当ではない

〔設問2〕乙の罪責について

Ⅰ.乙がAの腕にナイフを突き刺し、傷害を負わせた行為について

・傷害罪(204)
:人の身体を傷害した場合に成立
・傷害(意義)
:人の生理機能の侵害

・正当防衛(36Ⅰ)
:急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は罰しない
↓(要件)
1)急迫不正の侵害

・侵害の急迫性
:被侵害者の法益が侵害される危険が切迫したものであること
・「正当防衛」の趣旨
:急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したもの(参考判例 侵害の急迫性 H29.4.26 Ⅰ-23)

以下、内容を検討し、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には侵害の要件を充たさない。
①行為者と相手方の従前の関係、②予期された侵害の内容、③侵害の予期の程度、④侵害回避の容易性、⑤侵害場所に出向く必要性、⑥侵害場所にとどまる相当性、⑦対抗行為の準備の状況、⑧実際の侵害行為の内容と予期された侵害の異同、⑨行為者が侵害に臨んだ状況、⑩その際の意思内容

2)権利の防衛であること
:正当防衛は急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するために認められる

3)防衛行為であること
:防衛の意思をもって、防衛するための行為でなければならない
(↔積極的加害行為は防衛の意思を欠く)

4)やむを得ずにした行為(防衛行為の相当性)
↓(判断基準)
①侵害行為と防衛行為の法益の種類、態様、強度の比較
②より危険性の低い手段を採ることの容易性

・本問では、甲はAとかつて同じ不良グループに属しており、Aの性格や過去に怒りにまかせて他人に暴力を振るったことを知っており、激怒したAのもとに出向けばAから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いと思っていたので、甲には侵害のほぼ確実な予期があり、実際にその予期通りの侵害が行われている(①②③⑧)。また、甲はAの呼び出しに応じる必要がなく、バイクの件を含め事情を警察に話して助けを求めることも不可能ではなく、そうすべきであった(④⑤)。そして、包丁を準備して現場に臨み、威嚇もなく突き出している(⑦⑨)。
↓以上の事情に基づけば、
正当防衛として甲を保護することが刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえず、侵害の急迫性は否定される
↓なお、
他人の権利を防衛する事例においては、被侵害者の予期やその他の事情を基礎に急迫性を判断すべきであり、乙が侵害を予期していないことは本問で急迫性を認める理由にはならない
↓以上より、
乙の行為には侵害の急迫性が否定され、正当防衛は成立しない

・誤想防衛
:正当防衛にあたる事実が存在しないのに存在すると誤信した場合

・過剰防衛(36Ⅱ)
:防衛行為が「防衛の程度を超えた」場合には、正当防衛として違法性は阻却されずに過剰防衛となり、犯罪が成立する

・誤想過剰防衛
:急迫不正の侵害が存在しないのに、それが存在すると誤想して、それに対し、反撃行為を行った場合であって、誤想した侵害が実際に存在するとした場合に許容される範囲を超えた行為を行ったとき

・乙に関して誤想防衛として故意が阻却されるかを検討する必要がある

乙の認識では現在の侵害が存在するので急迫性が認められる。また、甲を助けようとしているので、防衛の意思もあるが、やむを得ずにした行為と言えるかが問題となる

乙の認識では、Aの侵害行為は素手による殴打であるのに対し、乙の防衛行為はサバイバルナイフという命中箇所によっては死亡結果をもらたす可能性も十分ある危険な刃物が用いられており、右上腕部を狙っているという事情を考慮しても、防衛行為の危険性は侵害行為の危険性を大きく超えている。また、乙には警告や威嚇をするなど他に危険性の低い手段が可能で、甲と二人がかりで防衛する状況にもなりうることを考えれば、それで十分実効性があったと言える。
↓以上の事情を考慮すれば、
乙の行為は「やむを得ずにした」とは評価できない。

・誤想防衛の事例で過失犯が成立する場合、刑法36条2項の適用の余地がないこととの均衡から、誤想過剰防衛の場合にも急迫不正の侵害の誤信に過失があれば、過失犯の刑より軽く処断することは不適切なので刑の免除まではできないと解すべき。もっとも、本問では、緊急状況下で乙の誤信に過失がないものと解され、免除を認めても不均衡はない(理解が難しい)

Ⅱ.乙がDの本件原付を無断で発進させた行為について

・窃盗罪(235)
:他人の財物を窃取した場合に成立

・財物(意義)
:有体物(空間の一部を占めて、有形的存在を持つ固体・液体・気体)(有体性説(通説))
・財産的価値(意義)
:(客観的)交換価値はなくとも、(主体的)使用価値が認められれば足りる
・占有(意義)
:財物に対する事実上の支配
→客観的要件=財物に対する支配(占有の事実)と主観的要件=支配意思(占有の意思)を総合して社会通念に従い判断
・他人の財物(意義)
:他人が所有権を有する財物
・窃取(意義)
:他人が占有する財物を占有者の意思に反して自己又は第三者の占有に移転させること

・窃盗罪の成立を肯定するには主観的要件として、他人の財物を窃取することの認識(窃盗罪の故意)のほかに、不法領得の意思が必要

・不法領得の意思(意義)
:権利者を排除して、他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、利用・処分する意思

・乙は本件原付をAの追跡を振り切り安全な場所まで移動するために一時的に利用するつもりだったので、明文にない要件である不法領得の意思が問題となる

本件原付の価値は低くなく、まさに被害者が現在利用している最中であった。乙はAを振り切るために利用するつもりなので利用時間自体は短いかもしれないが、乙は逃げた後その場に本件原付を放置して立ち去るつもりなので被害者にとっては権利が事実上喪失したのと同じである。以上の事情からすれば、犯行時に乙の想定する使用方法に可罰性が認められることは明らかであるため、不法領得の意思は否定されない
↓したがって、
窃盗罪の構成要件該当性は認められる

・緊急避難(37Ⅰ)
:実質的違法阻却原理としての同等利益・優越的利益を法定(違法性阻却事由説(通説))
↓(成立要件)
1)自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難
:人の生命、身体、自由又は財産の侵害の危険が切迫している状態
2)避けるため
:現在の危難を避けるための行為
3)やむを得ずにした行為
:危難回避の方法が他に存在しない場合に認められる(補充性の要件)。これに加え、避難行為を行うことが相当であると認められること(避難行為の相当性)が必要
4)害の均衡
:避難行為を行った結果として、「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」ことが必要

・自招危難
:避難行為者自身が現在の危難を招き、その危難をそれにさらされた者から他人に転嫁した場合

自招危難について緊急避難は成立しない(参考判例 自招危難 大判T13.12.12 Ⅰ-32)

・乙の窃盗行為に避難行為の相当性があるかが問題となる

行為者自身が自己の法益に対する危難を招いているので、第三者の法益を保護する事例と異なり、要保護性の低下がある。たしかに、保全法益は身体で場合によっては重大な傷害を負いかねないものであるのに対し、侵害法益は財産であるが、その価値は必ずしも少ないとは言えない。また、自招行為は、他人を助けようとして行われたものではあるものの、故意の傷害で明らかに過剰で危険性の高い行為であり、それによって生じた自己の身体への危難を財産侵害とはいえ他者に転嫁すべきとは言い難い
↓したがって、
自招危難を理由に相当性は否定され、緊急避難は成立しない

Ⅲ.結論

・乙には、Aに対する傷害罪とDに対する窃盗罪が成立し、両者は併合罪になる。傷害罪については、過剰防衛として刑法36条2項が準用され、刑の減免の可能性がある

参考文献
:刑法〔第4版〕・山口厚(有斐閣)
 刑法判例百選Ⅰ・Ⅱ〔第8版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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