おとり捜査、強制処分、任意捜査、訴因変更(2022司法試験-刑事訴訟法)

〔設問1〕〔事例1〕記載のおとり捜査の適法性について

・おとり捜査(意義)
:捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者がその身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出た所で現行犯逮捕等により検挙する捜査手法(参考判例 おとり捜査 最判H16.7.12 11)

刑訴法上、明文規定はない

・強制処分法定主義(197Ⅰ但書)
:捜査目的を達成するために「必要」な行為であっても、それが「強制の処分」に当たる場合には「この法律に特別の定のある場合でなければこれをすることができない」

・強制処分(意義)
:相手方の明示または黙示の意思に反して行われ、その重要な権利・利益に対する実質的な侵害ないし制約を伴う処分

・任意捜査(意義)
:強制処分を用いて行う捜査を強制捜査といい、それ以外の手段による捜査のこと
→任意捜査の原則

・捜査比例の原則(意義)
:正当な目的を達成するために「必要」かつ「相当」な範囲で行わなければならない(197Ⅰ)(強制処分の回避)

・刑訴法における捜査の一般的な規律の枠組み
:1)強制処分(197Ⅰ但書)にあたるかどうか、2)任意処分であれば比例原則の規律に服する

・おとり捜査は強制処分にあたるかどうか

甲は取引の過程で渋る態度は示しているものの、最終的には自己の意思で売買に応じており、その意思に反するものとはいえない。仮に動機の形成過程に錯誤があったとしても、国家から干渉を受けずに犯罪を犯す自由は法的保護に値しない
↓したがって、
本件おとり捜査は任意捜査である

・任意捜査として比例原則(必要性、補充性、相当性)の規律に適合しているか

本件は薬物犯罪で直接の被害者がおらず、かつ密行性も高いため、一般的・類型的な捜査が困難な犯罪の類型である。また、具体的に甲には過去に大麻密売の嫌疑が認められる上、本件との関係でもAによる電話により、甲が今でも大麻を密売していることは確認できている。
↓したがって、
おとり捜査による必要性が認められる

過去の大麻事件の捜査過程でも、甲の身元や所在地は関係者の供述からも不明であった上、甲がAにかけてきた電話番号の契約名義人も実在しなかったことから、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難であったといえ、補充性も認められる
↓なお、
甲がサンプルを持参した時点で現行犯逮捕すれば足り、その後は必要性及び補充性を欠くとみる余地もある。しかし、当初からPらは甲による大掛かりな大麻密売の全容解明につなげることを目的としており、それ以降の経緯も正当な捜査目的を実現する上ではやむを得なかったと言わぜるを得ない
↓以上より、
本件おとり捜査は具体的な状況のもとで相当と認められる
↓したがって、
本件おとり捜査は任意捜査として比例原則の規律に適合しており、適法である

〔設問2〕小問1.〔資料1〕の公訴事実に対して〔資料2〕の罪となるべき事実を認定し、判決をすることが許されるか

・訴因変更(312Ⅰ)
:公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の変更が許されること
↓(趣旨)
被告人の手続的負担増大や不意打ち等の回避

新訴因が被告人に対して旧訴因とは別個の刑事責任を発生させる事由として主張されている場合には否定され、同一又は単一の刑事責任の発生事由として主張されている場合には肯定される

・訴因の機能
:1)裁判所との関係で審判の対象を限定すること、2)被告人に対して防御の範囲を示すこと、3)被告人に不意打ちを与えるものではないこと

・本問において乙が放火したこと自体には変わりがなく、実行行為の具体的な方法ないし、態様に差異が生じているにすぎない
↓よって、
構成要件該当性の判断に影響はないので、審判の対象に変更はない(1)
↓しかし、
具体的な放火の態様は防御にとって重要な事項であり、起訴状においても訴因として明示されているので、訴因変更を要すべき事実の変動といえる(2)
↓また、
検察官は放火の態様に関して追加の主張、立証の予定はないと答え、被告人側としては起訴状通りの放火の態様のみが争点であると考えるのが自然であり、資料2での認定は被告人に対して不意打ちとなる(3)
↓以上より、
裁判所は訴因変更を経ずに資料2の通りに判決をすることは許されない

小問2.裁判所が前記の心証に従い、事実認定の理由として、共謀が成立したのは同月2日である旨説示した上で、〔資料3〕のとおりの事実を罪となるべき事実として認定し、判決をすることが許されるか

・共謀に加わった者の範囲及びその中から実行行為が行われたこと、実行行為の日時及び場所、並びに被害結果が特定されている以上、共謀の日にちまで特定せずとも、当該事件を他の事件から区別し、処罰請求の根拠となる構成要件該当性を判定することは可能である
↓したがって、
検察官の釈明内容は訴因の内容をなすとまでは言えず、これと異なる認定をするには必ずしも訴因変更を経る必要はない
↓もっとも、
本件では共謀の日にちは11月1日に絞られており、それをめぐって攻撃防御が行われているにもかかわらず、同月2日での成否については一切の防御の機会が与えられていないので、たとえ判決理由中であっても2日を根拠に共謀を認定すれば、被告人にとって不意打ちとなる
↓以上より、
裁判所は訴訟指揮権を適切に行使し、11月2日での共謀の成否を改めて争点として顕在化し十分な審理を遂げた上でなければ、資料3の通りの罪となるべき事実を認定することは許されない

参考文献
:LEGAL QUEST 刑事訴訟法〔第3版〕・宇藤崇、松田岳士、堀江慎司(有斐閣)
 刑事訴訟法判例百選〔第11版〕(有斐閣)
 司法試験の問題と解説2022・法学セミナー編集部(日本評論社)

田中洋平 について

大学で建築と法律を学びました。 大学卒業後は木造の戸建住宅やS造・RC造の事務所や福祉施設等の 様々な構造・用途の建築設計に携わりました。 また現在も、日々、建築と法律の勉強を続けています。 建築(モノ)と法律(ヒト)のプロフェッショナルとして 多様な知識・経験・考え方を通して、 依頼主が望み、満足し、価値を感じる、 一歩先の新たな価値観を提案します。
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